牛口先生率いる柄が悪そうな奴らに連れられたのは、キャバクラとかホストクラブとかがありそうな建物がごったがいしている場所の一角。最近は新しいビルが立ち並んでいるんだけど、その奥にある古くて灰色なビル。無理やり押し込まれた狭い車の座席から、周囲に見えないように降ろされると、軋んだガラス扉を抜けて、古くて今にも落下しそうなエレベーターに乗せられた。到着したのは最上階。
少しだけかび臭い廊下を歩くと、なんだかすごく嫌な気持ちになった。
奥にある銀の扉を抜けると、大きな部屋の中に到着した。室内は廊下とは違って、広くて清潔で綺麗な場所だったんだけど、タバコか何かの煙が充満していて、思わず顔を歪めてしまった。煙なんてものともせず、部屋の左右には黒いスーツを着た人たちがズラリと並んでいる。
中央の一人がけのゆったりしたソファに、でっぷりとしていて偉そうな感じのパンチパーマがかかった男の人が座っているではないか。
「牛口か」
「鼠川組長」
どうやら、この男の人が牛口先生と関わりのあるヤクザの組長さんみたい。
確かに高級そうな灰色のスーツを纏っていてカフスボタンもキラキラで金ぴかだ。
今もまだあるんだね、葉巻を吸っていたんだけど銀色の灰皿にぎゅっと強く押し付けた。ニヤリと笑うと出っ歯が特徴的な男の人。
「風呂に沈める次の女を連れてきたのかい?」
風呂に沈めるというのは、いわゆるソープランドとか風俗で女性を働かせるっていう意味だったと思う。
鼠川組長が私の方を向いたかと思うと、目を眇めた。
なんだろう、なんだか値踏みされてるみたいでイヤな感じだ。
「おや? 今回は女子高校生じゃなくて、大人の女じゃないか? 令和になっても初物じゃないと売れないぞ」
すると、牛口先生がニヤニヤした調子で答えた。
「この女は処女ですよ、だから年は取ってるけど、まあまあ売れるんじゃないかなって」
男性経験があるかどうかとか、いちいち男二人で喋ってきて気持ちが悪すぎる……!
今時流行らないし、私は結婚を誓い合った本当に好きな人とだけしか、そういうことはしないの!
内心憤りは凄まじかったけど、事を荒立ててはいけない。
だって、私は連れてこられたけれど、実は……
「そういやあ、牛口、その女、お前が結婚詐欺のカモにしてたやつじゃねえか?」
「ああ、そうなんですよ、騙しがいがあったっていうのに……真面目な女ほど、こういう恋愛商法みたいなのにハマりやすいからですね。見た目はかなり綺麗だし。ちょうど良かったから、結婚チラつかせて遊んだ後に捨てようと思ってたら、ホテルの前で引っ張ろうとしたら半泣きになって……処女は面倒だなって」


