黒塗りの車、大牙くんに抱き寄せられて、またもや流されそうな空気になってしまっていたけれど……
『ねえ、まゆりちゃん……あいつの悪事をどうにかするのに協力したら、デートに加えて僕にご褒美をくれる?』
相手の一言ではっと正気に戻った。
思わず大牙くんの顔を両手ではっしと掴んでしまう。
「え!? そんな……牛口先生はヤクザと繋がってるんだよ! 危ないよ!」
私がむぎゅっと掴んだせいで大牙くんの綺麗な顔が歪んだけど、どんなにくしゃってなってもイケメンなままだ。
彼の大きな手が私の手首を掴んで、そっと引きはがした。
「それって『どうにかしなきゃ!』って牛口先生本人に突っ込もうとしてた、まゆりちゃんのセリフじゃないと思うけどなあ……」
「う……」
痛いところを突かれてしまった。
「まあ、そういうところが好きなんだけどね」
外国帰りのせいか、これまで以上にストレートに『好き』だって言ってくる大牙くんに、胸がドキドキしてしまうけれど……今は生徒たちの一大事だ。
「大牙くん、こういう時はちゃんと警察を頼ったりして、どうにかしなきゃ」
大牙くんは相変わらず無邪気な世間知らずなところがある感じだし、高校生の時みたいに私がしっかりしなきゃ……!
「でもさ、まゆりちゃん、犬塚さんの話だと、警察も手が出せないみたいな感じじゃなかった?」
「確かにそんなこと言ってたけど……大牙くんが危ない目に遭うのは嫌!」
大牙くんがクスリと微笑んだ。
「俺の心配をしてくれるのは嬉しいな。だけどね、まゆりちゃん……俺が危ない目に遭うなんてこと、この辺り一帯じゃあり得ないよ、絶対に」
「え?」
彼の顔を見る。
ドキン。
心臓が跳ね上がった。
普段は犬や猫みたいに可愛らしい印象の強い大牙くんなのに――この間一瞬だけ気配が変わった時みたいに、ふっと陰りを帯びたような――ギラギラ眼光が鋭くって……なんだか獰猛な獣のような雰囲気を纏っているように見えたんだ。
なんだか大人の男の人に成長したんだなって思ってしまう。
「ねえ、まゆりちゃん――もしもだけど……」


