犬塚さんの相談内容をにわかに信じられないまま帰路につくことになった。
たまたま校門前に大牙くんの実家の黒いリムジンがお迎えに来てたんだけど……
悩みに耽っていたら、私もなぜか大牙くんと一緒に後部座席に乗って帰ることになってしまった。
やけに強面の運転手さんがものすごい角度で頭を折って挨拶してたのが印象的だった。
ふかふかのソファにキラキラした照明のある車とか、生まれて初めて乗って本当は感動したいんだけど……
『同級生の鶏川がいるじゃん? どうも牛口先生のことが好きみたいで一緒に遊びに行ったりしたこともあるらしいんだけど、なのにね――』
どうやら、牛口先生、高校生に自分を好きになるように仕掛けた後に、売春の斡旋をしているのだというのだ。
だけど、ヤクザと裏で繋がっているとかなんとかで、騙された女子高校生たちは泣き寝入りをしているのだという。
(牛口先生が、そんなひどいことをする人だなんて思わなかった)
「まゆりちゃん」
隣に座る大牙くんが耳元で囁いてくるものだから、身体がビクンと跳ね上がってしまった。
「え? あ、大牙くん、ごめんね」
謝る私に向かって大牙くんが問いかけてくる。
「さっきの犬塚さんの話が気になってるの?」
まっすぐな瞳で見つめられたら嘘はつけない。
「……実はそうなの」
「それはさ、元婚約者の牛口先生の話だから気になるの? それとも、話の内容自体に結構問題ありだから気になるの?」
大牙くんの機嫌が少しだけ悪い気もする。
だけど、相手の機嫌を伺ったからじゃなくて本心を口にすることにした。
「教育者として話の内容に、かな」
そう、大牙君がきてからというもの振り回されぱなしで、いつのまにか牛口先生と婚約破棄したことなんて、どこかに飛んでしまっていた。
それよりも、教師としてあるまじき行いをしている相手をどうにかしないといけないという正義感の方が現在は勝っていた。
思わず拳をぎゅっと握って宣言する。
「絶対にダメだよ、どうにかしなきゃ。これ以上被害者を出しちゃダメ!」
「ふふ、相変わらず、猪突猛進だなあ、まゆりちゃんはさ」
なぜだか大牙君は私を見て嬉しそうに微笑んでいた。
ふっと真面目な表情になったかと思うと、大牙くんの長い指が私の髪の先端をくるくると弄り始める。
「昔と変わってないね。俺の大好きなまゆりちゃんは相変わらずカッコイイや」
かっこいい。
仮にも女性だけれど誉め言葉として受け取っても良いものだろうか?
そうは思ったけれど、大牙くんの顔ときたら蕩けるような笑顔を浮かべていて、思わず胸がきゅんと高鳴った。
そうして、彼の指が私の頬にかかったかと思うと――
(あ……)
大牙くんの綺麗な顔が近づいてきて……


