「さっき言ったのは本気なんだ」

「何の……こと……?」

「ずっと好きだったっていう話だよ」

「それは……」

 心臓がさっきから破裂しそうで相手に気付かれてそうでとことん落ち着かない。

「まゆりちゃんのこと、一日だって忘れたことなかった」

 気恥ずかしくてパッと視線を逸らす。

「……私は……私も……もしも、大牙くんにあんな振られかたさえしてなかったら、ずっと……それに、牛口先生と婚約だって……」

 ……してなかった。
 そこまで考えて、ハッと口を噤む。
 なんだか言い訳がましいし、牛口先生に対しても失礼だよねって、心の中で自己嫌悪してしまう。
 思わず俯きそうになったけれど、大牙君がぐいぐいくるものだから、俯けない。

「だったら、まだ俺にも脈は残ってる……?」

「え? ええっと……」

「ちゃんと仕事に精を出すからさ、そしたらさ、デートに一緒に行ってよ! クリスマスが良いな! ね?」

「ええ……!?」

 答えを言いあぐねていると、無理やり小指同士を絡めてこられる。

「はい、指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます、指切った!」

 勝手に指切りさせられてしまった。
 ――相変わらず子どもっぽくてマイペース……!

「もう、私は十年前に一方的に別れを告げられたのを怒ってるんだよ、分かってるの? なのに突然帰ってきて色々言われても、まだ信用できないというか……」

「うん、確かにそうだよね……理由はもう少ししたらちゃんと話したい……だから、俺に信用を取り戻すための挽回のチャンスをちょうだいよ」

「理由、ちゃんと大牙くんの口から説明してもらえるの?」

「うん、もちろんだよ」

「だったら……」

 ちょろすぎるかもしれないけれど、私はコクリと頷いた。
 すると、大牙くんの顔が太陽みたいにぱあっと明るくなる。

「またチャンスをくれるなんて嬉しいな、まゆりちゃんはやっぱり優しいや……!」

「きゃっ……!」

 校門前のワンコムーブよろしく抱き着いてこられた。
 ちょっぴり床が冷たいのも忘れて、しばらく大牙くんに抱きしめられて過ごしていたら、なんだかポカポカ全身が熱くなってきた。
 ――別れた時に言ってたみたいに、私を好きなのは本当みたいな気がするんだけど……
 どうして離れないといけなかったんだろう?

 こうして、新任教師として現れた大牙くんの指導担当がはじまったのだけど――

 この後、とある女子生徒から牛口先生のことについて相談を持ち掛けられたのをきっかけに事件が起こって――どうして大牙くんが私のそばから離れないといけないのかを知ることになるとは、この時の私は思ってもみなかったんだ。