ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~

「カノン様、頭を打っていらっしゃるのですから、そんなに走り回らないでください。心配でなりません」
「ごめんなさい」

ゆっくり支えられてベッドに戻り、布団をしっかりと掛けられる。

「先程は誰と話していたの?」
「城の警備騎士です。
マルクス王子が階段から落ちた経緯をお調べしているとのこと、カノン様にも話を伺いたいと」
「あら。別に私、話すわよ?」

お仕事ですもの。その騎士も大変でしょう。
何せ王子がふざけて階段から落ちて危うく大怪我をするところだったんですもの。
打ち所が悪ければ死んでしまっていたかもしれないわ。
王子の側仕えも、近くにいた護衛騎士の方々も罰を与えられたりしたのかしら。お可哀想に・・・。

「説明は明日でいいのです。カノン様の安静第一ですわ!」
ふふふ。アイシャは過保護だなあ。

心配性のアイシャが私のたんこぶに濡れタオルをあてて、再び冷やしてくれる。
気持ちいい。


コンコンコン。

アイシャは、
「まあ!しつこいですわね!ガツンと言ってきますわ、ガツンと」
と言って立ち上がり、怒りながらドアを開けた。

ガツンと言った声がしないまま、再びドアが開き、アイシャが慌てて私の所に戻って来た。

「た、たた、た、大変です!!」
「どうしたの?」

「べ、べべ、べベルナルド殿下が、いいらっしゃいました!!」
「ええっ!?」

さすがに国王弟で婚約者(候補)のベルナルド様を追い返すわけにはいかない。

飛び起きて、急いで身支度を整える。

ぼさぼさになった髪はササっと三つ編みにして横で一つにまとめ、ソファに座る。

着ている菫色のドレスは皺が入ってぐしゃぐしゃになっていることに気付き、ベッドに戻って見えないように布団をかける。

寝転がっているのは失礼になるかもと、ベッドに起き上がり、背もたれの部分に枕を入れてそれにすがって座る。

胸元まで布団をかけて皺を隠す。

「アイシャ、どうかしら?」
「はい、いつも通りにお美しいです」
「よし!ではご案内して」
「かしこまりました」