ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~

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通いなれたベルナルド様の執務室に向かって急いで歩く。

走りたい気持ちだったけれど、伯爵令嬢がダッシュなんてお行儀の悪いことができるわけもなく、優雅に、しかし最大限の高速で早歩きをする。

途中出くわす貴族たちに
「おめでとうございます」
「この度はおめでとうございます」
とお祝いの言葉を掛けられる。

なんということでしょう、もう他の貴族たちに婚約の話が広まっているわ!!



「カノン!」

上方から声が聞こえた。

見上げると、マルクス王子が落ちてきた階段の上からベルナルド様が走って降りてくる。

「ベルナルド様!」

どういうことですか!?
国王陛下がこの婚約にめっちゃ乗り気になっちゃってるんですけど!?
なるべく婚約者候補のままでいる予定ではなかったのですか!?

駆け下りたベルナルド様が私の前に来る。
怒りまくっている私は思わずベルナルド様に詰め寄った。

ベルナルト様を見上げて睨めつけ、ベルナルド様は私を見下ろした。

「カノン、申し訳な「「「「「「わあああああ!!」」」」」」」

急に複数の大声がした。

私はその声に驚いて固まった。
ベルナルド様は反射的なのだろうか、私の肩を引き寄せご自分の胸元に私を匿う。
真横ではルーカスが周囲に向かって警戒して剣に手を添えている。

「ご婚約おめでとうございます!」
「おめでとうございます!!!」
「「「ご婚約おめでとうございます!!!!」」」

周囲にいる貴族たちが次々に祝いの言葉を述べていく。

「な、何、これ・・・・」
私はベルナルド様の腕の中で呆然としているのだった。