東京から北陸地方のA市に来ている歌手のシンイチは、実は、年末年始は、ここのA市にいて、コンサートを開く予定だった。
 しかし、シンイチは、本当は、北陸地方のA市に来たくなかった。
 もう、2023年12月も終わるのだが、だが、本当は、東京へ戻りたかった。
 本当は、年末年始は、憧れの彩女を誘いたかった。
 アヤメは、女優の上白石萌歌に似ているから。
 しかし、東京へ戻っても、歌が大して上手くないシンイチは、事務所の社長から「シンイチは、北陸地方のA市に行って、地方巡業をしてこい」と言われていた。
 歌手のシンイチは、顔だけは、佐藤健に似ている。
 だから、事務所の先輩歌手からは、「お前は、佐藤健の弟か?」などと揶揄われる。
 そして、2023年12月30日。
 東京駅から北陸新幹線かがやきに乗って、北陸地方のA駅にやってきた。
 シンイチは、こう感じた。
「こんなA市なんて、東京に比べたら田舎じゃん」
「信号が、変だ。横断歩道の信号が縦になっている」
 なんて思った。
 アヤメをデートに誘えず、そして、LINEの交換もできず、一人で、悶々としながら、北陸新幹線に乗って、ここのA市にやってきた。
 そして、A市の観光局のスタッフに会って
「シンイチさんは、これから、A市のL町に行ってもらいます」
 とA市のクルマで送ってもらった。
 A市は、まだ、この辺りでも都会だった。
 そして、戦国武将の何とか何だ衛門が、A城を立てた。
 さらに、A市のB神社には、鎌倉時代からの由緒ある神社です、と言った。そして、A市には、A総合病院があって、さらに、A市バスが、青色のラインをボディに塗って走っている。
「シンイチさん」
「はい」
「ここのA駅はね、昔、北陸本線があった時、東京までは、寝台特急があったんですよ」
「へぇ」
「今は、便利になって、北陸新幹線かがやきで、すぐに、東京へ行くから」
 と言った。
「今は、第三セクターになって、不便になるんじゃないかって、思っている」
 とか言っていた。
 そして、2023年12月31日。
 シンイチは、NHK紅白歌合戦を観ていた。
 同じ歌手をしている人間が、渋谷で歌っている。
 オレは、何だろうって思った。
 そして、チューハイを一杯飲んで、ホテルで寝た。
 アダルトサイトを観たが、実際の彼女ではなく、最近では、動物の交尾に見えてみなくなった。
 2024年1月1日になった。
 朝から暖かい日よりだった。
 そして、シンイチは、A神社まで、初詣に出かけた。
 ライブは、そこの小さな公民館で行う。
 今日は、仲間が、5人、クルマで来るらしい。
 着物姿の女性やら親子連れを何人か見た。
 そして、夕方4時前だった。
ーPRRR
 とスマホが鳴った。
 見知らぬ番号だった。
「はい、どなた?」
「シンイチ君?」
「え、アヤメさん?」
「大丈夫かなって」
「いや、大丈夫だよ」
「ライブ、頑張ってね」
 と言った。
 そして、その直後だった。
 ガラガラドンドン。
 急に建物が揺れた。
 アヤメは、音楽事務所の事務スタッフだったが、学生時代、一時期、占いのバイトをしていた。
 まさか、そんなことが、とシンイチは、思った。
 そして
ー地震発生!
ー今すぐ逃げてください!
 となった。
 ホテルのフロントが急にやってきた。
ーエレベーターが駄目だから、非常階段で逃げてください
 と言った。
 この時、震度は7らしい。
 慌てて逃げたがシンイチは、どうしたら良いのか、もうパニックになった。
 …
 そして、A市の避難所へ行った。ただ、避難所は、寒く、ここは雪国で、寒くなっていた。
 シンイチは、客として来ていたが、その内、A市の役所の人が来て「すみません」と言った。
 避難所には、一か月も過ごしていくとは思えなかった。
 勿論、SNSでは、大変だったが、この時、シンイチは、少し、思った。
 東京の大学を卒業したら、本当は、市役所勤めをしようと思っていた。だが、シンイチは、大学で、同級生と喧嘩になり、教授に罵られ、無職のまま、卒業した。実は、シンイチは、40代後半になった。
 だが、今の音楽事務所が、歌だけは好きなシンイチを拾って今に至った。