西の辺境エスポワールは、王家直轄地だと言えば聞こえはいいが、要は誰も領主になりたがらないから王家預かりになったまま放置されてきた辺境中の辺境だった。
 詳しい状況はまだ調べていないが、ろくな作物も取れず、産業もなく、他領の領民権を買えない貧乏な領民たちが日々の暮らしにも困窮している、そんな場所だと聞く。
 ブランシュはベッドの縁に腰かけたまま、顎に手を当てて考え込んだ。
 俯けば、緩く波打つ金髪がほっそりとした顔の輪郭を撫でるように流れ落ちる。
(ともかく……わたしは自由ってことよね?)
 リオネルは自由にしていいと言った。だから、間違いなくブランシュは「自由」なのだ。
 ふにゃりと口元が緩み、口角が自然と弧を描く。
(どうしよう――自由だ)
 新婚の夫に見向きもされなかった事実など、もうどうだっていい。
 自由なのだ。
 ここにはブランシュの行動を制限するような両親はいない。
 ブランシュは跳ねるようにベッドから飛び下りて、天井に向かって両手を突き上げて叫んだ。
「自由よ――!!」