(驚いているところを見るに、公爵は知らなかったみたいだな……。シャプドレーヌ公爵夫人は王妃と仲がいいと聞くが、そのせいか?)
そして、実の娘が絶望の地へ向かうことになっても構わないと言わんばかりの公爵夫人の態度に虫(むし)唾(ず)が走ったが、時間を浪費したくないので、リオネルは彼女の言い分に便乗することにした。
「その通りです。このたび辺境行きが決まりましたのでね、結婚後はブランシュにもそちらに異動してもらうことになります。誰も訪れないような辺境です。ブランシュが魔力なしだと知られることはないでしょう」
公爵はそれでも渋るそぶりを見せたが、最終的には了承し、使用人にブランシュを呼んでくるように命じた。
ややあって応接間に顔を出したブランシュに、リオネルは思わず息を呑んだ。
シンプルなドレスに身を包んだ彼女は、亡き大叔母シャルリーヌを若返らせればこのような姿になるだろうというほどよく似た顔立ちをしていた。
ふわふわとやわらかく波打つ鮮やかな金髪は、ほっそりとした顔の輪郭を優しく守るように流れ落ちている。欠点の見当たらないほどに整った目鼻立ちだったが、その中でも特に美しいと思ったのは彼女の瞳だった。
ブランシュの大きな瞳は、右が青灰色、左がエメラルドグリーンだった。
彼女がオッドアイであることはシャルリーヌから聞いていて、ブランシュの母親はその瞳を毛嫌いしていたと聞くが、リオネルには彼女の色の違うふたつの目は、息を呑むほどに美しかった。
化粧の匂いが嫌いなリオネルは、化粧っ気のない彼女の顔にも好感を持った。
みずみずしいサクランボ色の唇は緩く弧を描いていて、多少の戸惑いは見られるものの、ブランシュは穏やかな表情でリオネルを見つめている。
父親である公爵に座るように言われて、ブランシュは見ほれるほど綺麗な所作で席に着いた。
公爵はこほんとひとつ咳ばらいをして、娘に告げた。
「ブランシュ、お前の結婚が決まった。相手は目の前にいらっしゃるリオネル殿下だ」
ブランシュはぱちぱちと目をしばたたいて、それから、左右の色の違う目を、これでもかと見開いた。
そして、実の娘が絶望の地へ向かうことになっても構わないと言わんばかりの公爵夫人の態度に虫(むし)唾(ず)が走ったが、時間を浪費したくないので、リオネルは彼女の言い分に便乗することにした。
「その通りです。このたび辺境行きが決まりましたのでね、結婚後はブランシュにもそちらに異動してもらうことになります。誰も訪れないような辺境です。ブランシュが魔力なしだと知られることはないでしょう」
公爵はそれでも渋るそぶりを見せたが、最終的には了承し、使用人にブランシュを呼んでくるように命じた。
ややあって応接間に顔を出したブランシュに、リオネルは思わず息を呑んだ。
シンプルなドレスに身を包んだ彼女は、亡き大叔母シャルリーヌを若返らせればこのような姿になるだろうというほどよく似た顔立ちをしていた。
ふわふわとやわらかく波打つ鮮やかな金髪は、ほっそりとした顔の輪郭を優しく守るように流れ落ちている。欠点の見当たらないほどに整った目鼻立ちだったが、その中でも特に美しいと思ったのは彼女の瞳だった。
ブランシュの大きな瞳は、右が青灰色、左がエメラルドグリーンだった。
彼女がオッドアイであることはシャルリーヌから聞いていて、ブランシュの母親はその瞳を毛嫌いしていたと聞くが、リオネルには彼女の色の違うふたつの目は、息を呑むほどに美しかった。
化粧の匂いが嫌いなリオネルは、化粧っ気のない彼女の顔にも好感を持った。
みずみずしいサクランボ色の唇は緩く弧を描いていて、多少の戸惑いは見られるものの、ブランシュは穏やかな表情でリオネルを見つめている。
父親である公爵に座るように言われて、ブランシュは見ほれるほど綺麗な所作で席に着いた。
公爵はこほんとひとつ咳ばらいをして、娘に告げた。
「ブランシュ、お前の結婚が決まった。相手は目の前にいらっしゃるリオネル殿下だ」
ブランシュはぱちぱちと目をしばたたいて、それから、左右の色の違う目を、これでもかと見開いた。



