「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~

(馬鹿馬鹿しい)
 シャルリーヌを通してブランシュと公爵家の〝秘密〟を知っているリオネルは鼻で嗤(わら)いたかったが、不名誉な噂が立つよりは偽りの噂が独り歩きしていた方が彼女の名誉のためにもなるだろう。公爵家の名誉など知らないが、彼女の名誉は守るべきだ。
「シャプドレーヌ公爵家の掌中の珠に会ってみたいよ!」
 実情を知らないリュカは、そんなことを言って駄々をこねた。
 ブランシュが置かれている状況を知っていれば『掌中の珠』などという表現が、いかに不適切であるかわかろうというものだが、リュカには知る由もない。
「ダメと言ったらダメだ。昨日から教育係が捜し回っていたぞ。課題が進んでいないんだろう?」
「……ちょっと僕、出かけてくるよ」
「今帰ってきたばかりだろうが! いいからさっさと怒られてこい!」
「うえー……」
 この異母弟は、逃げ回っていれば課題が消えてなくなるとでも思っているのだろうか。
 立ち話をしているうちに、リュカの帰還の知らせを聞いたのだろう、四十過ぎの教育係が大慌てでやってきた。
 教育係に引きずられていくリュカに、リオネルは、はあと息を吐く。
 そして、リュカと話をしている間に準備が整った馬車に乗り込み、シャプドレーヌ公爵家へと向かった。