「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~

「ええ。西の辺境にある王家直轄地ですね」
 希望という名前のついた絶望の地。エスポワールはそのように呼ばれている、いわくつきの場所だった。かつてあの地は、その名の通り希望に満ち溢れた大地だったと聞く。
 百五十年ほど前の記録なので、それが真実かどうかリオネルには判断できない。
 記録を信じるなら、かつてあの地には聖獣と呼ばれる聖なる獣が存在していて、大地は潤沢な実りを生み、バゼーヌ国随一の豊かな場所だったそうだ。
 聖獣を呼んだのは聖女と呼ばれる、こちらも真偽のほどが定かではない存在だという。
 けれども、聖獣と聖女に守られた大地は、百五十年前の聖獣喪失を機に一瞬でその豊かさを失った。大地はひび割れ、木々は枯れ、井戸は干上がった。
 そんな馬鹿なことがあるかとリオネルは思ったが、学者が提出した資料には、エスポワールで豊かな生活が営まれていたことを証明するに値する証拠もあったので、判断が難しいところだ。
(聖獣が本当かどうかはわからないが、一瞬で大地が枯れるなど、本当に聖なる力が存在したとしか思えないのも事実)
 研究者の中ではいまだに、それが事実とする者と、ただの噂だとする者で意見が真っぷたつに割れている。
 そしてそのエスポワールは、領主不在のため百年以上前に王家直轄地になっている。
 とはいえ、ろくな税収があるわけでもなく、国はほとんど管理もせず、そこに住まう領民の嘆願にも耳を貸さず、捨て置いてきた場所だった。
 なにをしても一向に豊かにならない荒れ果てた大地に多額の資金を投じることができないのは、リオネルにもわかる。
 父は食糧援助を続けていたが、それすら臣下たちからは無駄金だと批判が出ていたそうだ。