「悪いが、俺に愛情は期待するな。女にかまけている暇はないんだ」
 ブランシュ・シャプドレーヌ改め、ブランシュ・シャプドレーヌ・エスポワールは、ベッドの縁に座ったまま、ぽかんとした顔で新婚の夫の顔を見上げた。
 初夜と呼ばれるべき日に、結婚式はしていないが戸籍上の 夫となった男が、眉ひとつ動かさずに淡々と、とても新妻に告げる言葉ではないことをのたまったからだ。
 灯りの落とされた薄暗い部屋では、初夜を演出するためか、蝋燭の炎が甘い香りとともにゆらゆらと揺れている。
 果たしてブランシュを妻だと認識しているのかも怪しいほど無感動な紫色の瞳で、ここバゼーヌ国第一王子リオネル――この地を与えられたのでエスポワール公爵となったリオネル・エスポワールは、ちょっぴり苛立たしげに蝋燭の炎に照らされた青銀色の髪をかき上げた。