え、これ俺、甘酒に酔ってね?

 え、甘酒って酔えんの?


 たしかに、うちの父親は酒が一滴も飲めない人らしいけどさ。

 俺も、そんな感じなわけ?

 いやでも、さすがに甘酒で酔うとかはねえよな?


「風間くん、大丈夫? なんだか顔が赤いみたいだけど」

 芹沢が、黙りこくった俺の顔を、心配そうに覗き込んでくる。

「ダメ、だから……ごめっ、あんま近づかれると……」


 ありったけの精神力をかき集めると、芹沢の両肩を掴んで押し返す。


 芹沢のいいニオイが鼻をかすめる。


 ドクドクドクドク……。

 心臓の鼓動がヤバいくらい速い。


 3.1415926535……ほら、さっきよりはちゃんと思い出せたぜ。ぐっじょぶ、俺。


 …………いやごめん、円周率。やっぱおまえじゃ全然ムリだったわ。


「芹沢。あのさ…………いい?」

 俺の問いを理解した芹沢が、頬を真っ赤に染めしばらくの間視線をさまよわせたあと、小さくうなずく。

「日菜……大好き」

 囁くように言うと、芹沢——日菜がさらに顔を赤くする。

「わたしも……大好きだよ。駿くん」



(了)