「芹沢。ミーコに会いに行こ」

 気づいたら俺は、みんなの前で歌う芹沢の腕を取っていた。

「え……?」

 芹沢が、戸惑うような視線を俺に向ける。

「ちょっとお、なにやってんのよ、風間」

 隣で歌っていた嶋野が、非難の声を上げる。

「ダメ、か?」

 チラッと嶋野の方を見た芹沢が、もう一度俺の顔を見上げると、「いいよ」と小さな声で言った。

「悪い。嶋野。ちょっと芹沢借りてくわ」

 そう言うと、俺は芹沢の腕を掴んだまま歩きだした。


「はあ!? マジでなにやってくれてんだよ、風間!」

 藤堂が、俺の行く手を阻むように出口の前に立ち塞がる。

「どいて。俺ら、今からミーコに会いに行くから」

「だから! ミーコって誰だよ!」

「おまえには関係ねえ。……どけよ」


 マンガなら、きっと俺の背後では黒い炎が燃え上がっていたに違いない。

 ぐいっと藤堂を押しのけると、荷物をまとめた芹沢とともに、カラオケボックスをあとにした。


 そのまま無言でしばらく歩いたあと——。