「サイラス、今後はローズ宮で暮らしなさい。お前のためだ」

 父である皇帝からいきなりそう告げられたサイラスには、嫌だと拒否する権利はなかった。
 使用人はたくさん付けるから不自由はないはずだと言われ、そのあとすぐローズ宮へ移ることに。
 サイラスが近くにいるだけでストレスを抱えておかしくなる皇后を、皇帝は看過できなくなっていた。
 マリアンナのように皇后まで体調を崩して弱っていくなどあってはならない。それを防ぐにはふたりが距離を取るしかないという判断だった。
 皇帝にとっても、サイラスだけを排除するのは不本意だがどうしようもなかったのだ。

 クリスタル宮とローズ宮はさほど離れてはいない。会おうと思えばいつでも会える。
 だがそんなふうにうまくはいかず、サイラスが父と顔を合わせるのは年に一度の誕生日だけだった。
 皇后とミシュロに至ってはプッツリと縁が切れたまま何年も歳月が過ぎていく。

 サイラスが十八歳になって成人すると、皇帝はローズ宮を訪れなくなった。
 子どもだった息子をひとりきりにして追い出した罪悪感から会いに来ていただけなので、大人になった今はもう必要ないと考えたのだろう。