「これは大丈夫? こっちの皿は?」

 マリアンナはその後、食事の席に毒見役を置くようになった。
 ただの食中毒ではなく誰かに毒を盛られたと確信したわけではなかったけれど、心配でたまらなかったのだ。

「私がサイラスを殺すとでも思っているのかしら。ひどい妄想だわ。不敬にもほどがある!」

 毒見役の噂を聞きつけた皇后は激怒し、マリアンナ親子に対する態度がさらにひどいものになった。
 異母兄であるミシュロも、ほかの側妃から生まれた弟や妹にはやさしいのにサイラスにだけはきつく当たっていじめていた。皇后がそういうふうに育てたのだ。

「大丈夫。あなたのことは、この母が守ります」

 いつもそう口にしていたマリアンナだったが、サイラスが十歳になるころ、体調がすぐれない日が増えていく。
 直接的な原因はなかったものの、長年にわたる心労がたたっていたようだ。
 自然と食事が取れなくなり、宮廷医の診療も成果が出ないまま弱りきって亡くなってしまった。

(母が若くして死んだのは、執拗に嫌がらせを受け続けたせいだ)

 毎日耐え忍んでいた母の顔が脳裏に浮かんだサイラスは、皇后とミシュロへの憎しみの気持ちが一気に強くなる。
 皇后もまた、日に日にマリアンナに容姿が似てくるサイラスが疎ましかった。