そうと決まれば、早速場所を変えましょう! 
とキラキラした目で言い、俺の腕を取って神社の隅に誘導していく巫女さん。

最初の丁寧な言葉遣いからは、清楚なお姉さんという印象を受けたが、
さっきは敬語が取れていたし、縋るような目は幼く感じられた。

もしかして、この人、そんなに年離れてない?
ひょっとして同い年?



 拝殿から少し離れた人気のない場所に二人して腰掛ける。

すると、巫女さんはキラキラした目のまま、食い気味に早速問いかけてきた。


「で、なんでお祈りしないんですか⁉︎」

 透き通った星のようにキラキラ輝く目。
少女のように幼い目を向けられたら、答えるしかないだろう。

「……、俺、神を信じてないので。
 逆にあんたは何で信じてるんだよ。
 巫女さんってことは、神を信じてるんだろ?」

「うーーん。そうですねぇ……。」

巫女さんは、さっきの幼い様子から一変し、急に真剣な表情になった。

「私は、神は、概念のようなものだと考えています。
 つまり、『神がいる』と仮定しているんです。
 で、そう仮定すると、世の中にある様々な問題を解決できます。
 自然災害や事故による不幸や、試験の合否などの理不尽に遭遇し、
 なんで、どうして、と誰かを責めたくなる時があるでしょ?
 そういう時、神という存在があれば、少しはその心が楽になるかなって。
 そう思うんです。」

さっきの幼い少女はどこに行ったのか。
まるで別人だと思うほど、真剣で聡明な表情で自分の意見を語る巫女さん。
俺はそのギャップと考えの深さに圧倒されていた。

「……、な、なるほど。」

「あと、似た話にはなりますが、心の支えにもなると思うんです。
 『お祈りしたから大丈夫』
 そう言い聞かせることで、自分の中にある不安を拭い去ることも
 できるのかなって。」


なるほど。
素直に感心した。

それが故に、真っ直ぐなこの巫女さんに、ちょっと意地悪したくなった。


「でも、それって洗脳とも言えるんじゃないの?」


我ながら嫌な性格をしている。
巫女さんの真っ直ぐで澄んだ想いに槍を刺す質問をしてしまった。


ところが、巫女さんは、ちょっと考える素振りを見せると、
とびっきりの笑顔を俺に向けて、こう言った。

「確かにそうかもしれないけど、
 その洗脳によって救われる人が大勢いるのなら、
 その洗脳は決して悪くないと思います!」
「多くの人が幸せになれるのなら、
 神という存在はとても良い概念だと。
 そう思うんです!」



「……!」

トスっ



 その笑顔を見た瞬間、何かが胸の辺りに刺さった気がした。
巫女さんの目は、どこまでも透き通っていて真っ直ぐで、
俺はその目に吸い込まれていた。
 巫女さんの、深い考えと真っ直ぐな意志は、
俺には眩しすぎるものだった。


ドクドクドクドク……


信じられない。

信じたくもない。

けれど、俺の胸の鼓動は高まるばかりで。

彼女の瞳にどんどん吸い込まれていくのは自分で。



あぁ、きっと。



俺は彼女に恋をしてしまったのだろう。


ーー