幸い、男性は足を止めながらゆっくりと境内を散策していたので、1分程で追いつくことができた。


「あの、すみません。」


男性の横に立ち、声をかける。


「……はい。何ですか?」


男性と目が合う。

美しい

男性の顔を見て、ストンと降りてきた印象がそれだった。
黒いサラサラした前髪と、白い清潔感のある肌がとても美しい。
でも、目は涼しい、というか冷たくて、
クールな人なのかな、と思った。


「先程、お賽銭箱に10万円程の大金を入れていらっしゃいましたよね?」


「えっ……、あーーー。そうっすね……。」


まさか見られていたとは思わなかったのか、男性は少しの戸惑いを見せた。


「お祈りをしたり、神を拝んだりといった行為をしておられれば、大金を入れていらしても納得できたのですが。
 そのようなことをしておられなかったので、どうしてかな、と疑問を抱きまして。」


男性は、少し考える素振りを見せ、こう答えた。


「……。別に。気まぐれ。」


「えっ」


「悪いけど、俺もう行かないと。じゃあ。」


「えっちょっ、待ってください……!」


気まぐれで10万円投げ入れる人がいるか……⁉︎
あの人嘘下手すぎだろっ!

追いかけて問い詰めたかったが、それは叶わなかった。


巫女は、境内を走ってはいけない。


ーー