静かな呼吸 -Silent Breath-


その日の夜。
初めての病院食で夕ご飯を取りながら、同じ部屋の子たちと自己紹介をした。

「私は宮本花歩(みやもと かほ)。小学5年生。小児がんっていう病気で、5歳の時から入退院を繰り返しているの。大先輩だから、困ったことがあったらなんでも聞いてね!これからよろしくね」

私の隣のベッドは、明るい笑顔が可愛い女の子。小児がんは、私も聞いたことがある。
小さい頃からずっと闘っているなんて、すごいな。

そう思っていると花歩ちゃんが、私のところに紙を持ってくる。

「龍河くんは、話せないからいつも筆談なんだ。それで、自己紹介を紙に書いたんだ」

受け取った紙には、丁寧な字で文字が書かれていた。

『星川龍河(ほしかわ りゅうが)、高校2年生。肺結核の後遺症で人工呼吸器をつける必要があって普段は話せない。よろしく』

どうやら、斜め前のベッドの人が書いたらしい。結核は保健の授業で習った気がする。

「よろしくお願いします…」

そう言って、頭を下げた。
すると、突然、星川さんは手を振ってジェスチャーをした。でも、全く意味がわからない。

「あ、龍河は少しだけ手話も使うんだ。普通にタメでいいし、呼ぶときも下の名前でいいよ、気楽にしてって言ってる」

松岡さんがそう翻訳してくれた。

「龍河さん、よろしく」

ぎこちないもののそう言ってみた。
すると龍河さんはグッドポーズをしてくれた。

「改めてだけど俺は松岡ノア。タメでいいし、ノアって呼んでね。中学3年生で、7歳の時にイギリスから来たんだ。難病を持ってて、ずっと入院してる。よろしくね」

病名をはぐらかされた気もするが、プライバシーの問題だろう。でも、難病ってことは治らないってこと…?ずっと入院しないといけないくらいのものなんだろうか。

ふと、皆の視線を感じて、焦って自己紹介をする。

「私は濱田怜南と言います。中学3年生です。腰を骨折して入院しました。よろしくお願いします」

すると皆拍手して微笑んでくれた。とりあえず、受け入れてくれたみたい。
そのことに安心した。

「今日から怜南ちゃんは618号室の仲間だね!友達になってもいい?」

花歩ちゃんが無邪気な笑顔で聞く。むしろ、こんな私と友達になってくれるなんて、嬉しすぎる。

「もちろん!花歩ちゃんと友達になれるなんて嬉しい」

「え、俺も友達になりたいー」

そう拗ねた顔で言うのはノアだ。龍河さんも頷いている。

「私、ここの皆と友達になりたい。よろしくお願いします」

少し声が震えたけど、勇気を振り絞った。

「俺らは大歓迎!一緒に過ごせる仲間が増えて、すごく嬉しい」

そう言って、私たちは笑い合った。



そして、病院生活の幕開けとなった。