「でも、埜夜くんは、昔わたしが住んでたところは知らないはずじゃ……」


「もう少ししたら、話せるときがくると思うから」


気になる……けど。

話してくれるのを今は待つしかないのかな。



「どうやら決まったようね」

理事長さんと還琉くんがやって来た。

還琉くんは、ぐるっと一面を見渡して納得した様子を見せた。



「ここはたしか……柚禾が昔住んでた家だよね」

「う、うん」


「そっか……そうだよね。柚禾にとって両親と過ごした唯一の場所だもんね」


還琉くんは、幼い頃わたしが両親と何度か行ったことがある花畑に行っていたみたい。


「僕が柚禾のことを誰よりもわかってるつもりでいたけど……違ったね。本当に柚禾のことを理解していたら、ここに来ていたはずだから」


「…………」


「僕の負けだ。柚禾の想いに応えた彼が、柚禾のそばにいるのにふさわしいと思う」


「還琉くん……」


「ただ、僕が柚禾を好きだった気持ちは忘れないでほしい。この想いは本気だったから」


「うん、ありがとう還琉くん」


たとえ離れていても、わたしにとって還琉くんは大切な幼なじみだから。



「僕は柚禾の幸せを心から願ってるよ」


こうして還琉くんはロンドンへ旅立った。