「ほんとにお屋敷まで送らなくていいの?」

「う、うん。学園に忘れ物しちゃって」


還琉くんの車でお屋敷まで送ってもらうのは、なんでか抵抗があって。


別にやましいことがあったわけじゃない……けど。


埜夜くんと還琉くんが会ったら、どうしたらいいのかなって考えてしまった。


学園の門のところで車を止めてもらい、車から降りると。


「柚禾お嬢様」

「な、なんで埜夜くんが……」


ここで待ってるとは思わなかった。


まさかの展開に、どうしようって頭の中がパニック……。


「へぇ……柚禾のそばに僕以外の男がいたのか」


車から降りてきた還琉くんの目線が、埜夜くんに向いた。


「はじめまして。柚禾の幼なじみの桔梗還琉です」


「……栖雲埜夜と申します。専属の執事として柚禾お嬢様に仕えております」

「栖雲って、どこかで聞いたことある名前ですね」


な、なんだか張り詰めた空気感……。


「柚禾は僕の大切な幼なじみでもありますが、いずれ僕の婚約者として迎え入れるつもりです」


「…………」


「もちろん、強引にではなく柚禾の気持ちをいちばんに大事にします」


埜夜くんは口を閉ざしたまま、表情をまったく変えない。


「柚禾は必ず僕が幸せにします」


その言葉を残して、還琉くんは去っていった。