あの日から尊くんは、学校に来るようになった。
私はクラスのみんなとも徐々に仲良くなっていった。尊くんにも何人か友達が出来たようだ。まあ、一部の人から少し警戒されてるけど...
「おい、尊。また怪我してんじゃん。大丈夫か。」
「おう。南高のヤツらが急に殴りかかってきて。でも、勝ったから大丈夫笑」
「強ぇ。尊そんな見た目ってだけで喧嘩ふっかけられて可哀想だよな。何かあったら俺ら遠慮なく呼べよ?」
「お前ら喧嘩できんの?」
「お、おう。だちのためなら強くなれる。はず...」
尊くん、友達と楽しそうに話してる。良かった。尊くんのおかげで私の世界がどんどん拡がっていく。
がまあ、授業はサボるか寝てるかの2択なんだけどね。
「ねぇ。よっしー。あんた、尊くんの事好きなんでししょ。ぶっちゃけ。」
世莉ちゃんがニヤニヤしながら聞いてくる。
「へっ?うん好きだよ。」
「違うっ。あんたの好きは友達としてでしょ?私が聞いてんのは尊くんを男の子として好きかってこと。」
「男の子として好き...?んー考えたこと無かった。どんな感じ?」
「嘘でしょ?じゃあ、初恋もまだな感じ?」
「確かに恋とかしたことない。ずっと友達作ろうと必死で生きてきたから...」
「まじかよ。ピュアすぎだろ。恋は、例えばその人のことをいつの間にか目で追ってたり、ふとその人のことを考えてたり、誰かと一緒にいて楽しそうにしてたらなんかモヤモヤしちゃったり...」
「ふーん?」
「ま、よっしーにもいつかわかる日が来るよ。」
恋か。いつかはしてみたいけど今はせっかく出来た大切な友達とかけがえのない思い出を作りたいな。
「尊くんっ。一緒に...」
「尊くーん。一緒に帰ろうよ。」
尊くん、あの日からクラスのみんなに人気になっちゃった。尊くんのいい所に気づいて友達が増えるのは嬉しいのになんか寂しい。こんな私、なんか嫌だ。
今日は1人で帰ろう。
とぼとぼとあの尊くんと初めて出逢った場所に行こうともんを出た時、
「千歳っ。何で置いてくんだよ。」
息を切らした尊くんがそこに居た。
「えっ。尊くん?今日は、あの子たちと帰るんじゃ...」
「なんでだよ。俺は千歳と毎日帰りたい。」
「な、なんで?」
「なんでって、千歳と一緒にいたいってだけじゃダメ?」
なんか、安心した。これって、もしかして世莉ちゃんが言ってたヤツ?私、尊くんが好きなのかな。
「ありがと。帰ろっ尊くん。」
私、尊くんが好きだ。でも、尊くんは友達って思ってるからこの気持ちは内緒。



私が恋というものに気づいた次の日から尊くんはまた、学校に来なくなった。
クラスのみんなも心配している。そう言えば私尊くんの連絡先知らない!
次会った時に聞こうかな。
「三好ー。お前朝霧と仲いいよな?これ、朝霧に届けてくれないか?」
「あっ、はい。わかりました。」
「すまんな。これ、住所。」
尊くん風邪かな?私は1人で渡された住所に向かった。
ここ、かな?随分古いアパートに住んでるんだな...。
この部屋だ。朝霧とヒビが入った名札が貼ってある。
インターホンをおそうとした時、中から何かが壊れる音がした。
ガシャン。パリンッ。
怒鳴り声?
私は全身が震えた。尊くんが危ないんじゃ。
私は思い切ってインターホンを押した。
「は、はいっ。」
「み、みことくん?大丈夫なの?」
顔にはいくつもの傷が出来ていた。血が出ている。
「え、千歳、なんで...」
「尊っ。何やってる。早く来いっ!」
「これ、プリント。ごめんね勝手にきて。」
「いや、わざわざありがとな。じゃっ。」
助けたいのに怖くて動けない。なにこれなにこれ。尊くんの毎日の怪我ってお父さん?
尊くんは苦しそうに微笑んでドアの奥へ消えていった。
尊くんを助けなきゃ。私は泣きながら走り出していた。
次の日も尊くんは学校に来なかった。
私は尊くんに逢いに行くことにした。どういうことかちゃんと聞こう。
放課後、私は急いで尊くんの家に向かった。
尊くんの家の前に立った時、また感じたことの無い恐怖が押し寄せてきた。
勇気がたせずに突っ立っていると、
「千歳?」
「尊くんっ。」
怪我は酷いけど尊くんがいて安心したせいか、私は尊くんに抱きついていた。
「尊くん、ごめん。ごめんね。きずかなくてごめんね。尊くんを1人にしちゃったぁ。」
「千歳...いや、千歳が泣く必要はねぇよ。俺も黙ってたし。あんなん急に見たら誰だって怖ぇだろ。なぁ、話したいことがあるからここ移動できるか?」
「うん。」
尊くんは私の手を優しく握り、あの桜の木がある高台へ歩く。
桜はもう緑の葉っぱを全身に身にまとい、なんの木なのか分からない立派な葉桜になっていた。もう夏も終わる頃だもんな...
「あのさ、俺この怪我、喧嘩とか転んだとかじゃなくて、父さんにやられたんだ。俺さ、母さんの顔知らねぇんだよな。父さんさ、小さい頃は俺を大切に育ててくれてたんだよ。だけど」