尊くんと出逢ってからひと月たった。相変わらずクラスではぼっちを貫いている。桜はほとんど散って綺麗な葉が芽吹き出している。
あ、尊くん寝てる...私はそっと起こさないように尊くんの横に座る。綺麗な寝顔。まつ毛長いし、金髪は傷まず艶めいてサラサラだ。
「尊くん学校にいるとどんな感じなんだろう...」
尊くんはいつもパーカの上に学ランのスタイルだ。
「ちとせ?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「来てたんなら起こせよー。千歳との時間が俺にとって唯一の楽しみなんだから。」
「へっ。」
尊くんがそんなこと言ってくれるなんて。
なんか照れてしまう。友達としてだよね。
「私も尊くんといるの好き。」
へへっ。やっぱ友達、尊くんだけで十分。
「な、千歳やっぱ天然たらしだ。いいか、千歳。俺以外にそんなこと言うんじゃねぇぞ。」
なんなんだ?私は尊くんにほっぺたを摘まれてそんなことを言われた。
「残念ながら言う人尊くん以外に居ないもん...」
「なんかわりぃ。」

「そんな気まずそうにしないで!私、尊君がいるからいいもん。尊くんがいるだけで楽しいし落ち着くし。」
「.....」
あれ?なんか沈黙恥ずかしいんですけど。尊くんの顔が見れない。
「な、何か言ってよ。」
思い切って顔を上げたら尊くんが泣いていた。
「え、え、尊くん?どうしたの??」
「あ、いや。なんか初めて言われたから...ごめん。」
なんか尊くんの抱える大きなものに少し触れた気がして私は尊くんを抱きしめていた。
「大丈夫。大丈夫だよ。私は尊くんを1人にしないから。約束だよ?」
「ありがと。俺も千歳を絶対に1人にしない。守るから。」
私は人生で初めて友達とこの桜の木の下で約束というものをした。
その次の日、早く学校終われーと思っているとやけに廊下がざわめいていた。
「かっこいいー。でも見て、あのけが!」
「怖っ。あれって噂の朝霧尊じゃない?」
「え、怖っ。」
今、尊くんの名前?
その瞬間教室の後ろのドアから尊くんが入ってきた。
さっきまで騒いでいた教室のみんなが静まり返る。
「え、尊くんっ!?」
「おはよう。千歳。やっぱ来なきゃ良かった。」
「え、今三好さんあの朝霧尊と話した?」
「どーゆう事だよ。もしかして朝霧に脅されてんじゃね?」
コソコソとクラスのみんながざわめき出す。
「ちょっと尊くん、こっち。」
私は尊くんの腕を掴んで屋上に走った。
「尊くん、なんで?ビックリしたよ。」
「ごめん。千歳が喜ぶと思って。」
「謝らなくていいから、学校に来てくれたのはめっちゃ嬉しいし!でも、ひと言ぐらい言って欲しかった。もしかしてだけどさ、昨日起きてたの?」
尊くんがしゅんとしながら小さく頷く。なんか、子犬みたいで可愛い。
「もー。でも、来てくれてありがとう。勇気、出してくれたんでしょ?」
「俺も学校での千歳見てみたかったし。」
「そっか。ほら、帰ろ私たちのクラスに。」
私たちは、クラスに帰った。
「てか、また転んだの?尊くん毎日怪我増えていってない?」
「あぁ、これはちょっと喧嘩吹っかけられただけだ。心配すんな。」
「心配するよー。だって顔だよ?絶対痛いじゃん。気をつけなよ。もう喧嘩は辞めて。ねっ?」
「...出来るだけしない。」
「おい聞いたか?喧嘩だって。怖ぇ。やっぱ三好さんにも関わんない方がいいよ。可愛いと思ってたけどさ、あんな不良とつるむとかヤバいって。」
「こわーい。あんな不良が同じクラスなんて最悪なんですけど。三好さん大丈夫なのかな?」
まぁ、確かに尊くんを初めて見る人は怖がっても仕方がない。だけど、そこまで言わなくても。
尊くんはこう見えて超優しいし、超可愛いんだから。
私の中で何かがブチ切れた。
「ちょっと!確かに尊くんは見た目は怖いけどさ、金髪、ピアス、鋭い目、怪我、不良の特徴フルコンボだけどさ、中身までそうとは限らなくない?話してみないと分かんないじゃん。」
きずけばば私は大声でみんなに訴えていた。
「.....」
クラスのみんなが目を見開いて静まり返っている。
ハッ。やってしまった。陰キャぼっちがでしゃばんなだよね?私明日から虐められるやつじゃん。なにやってんのちとせーー。
「陰キャぼっちが出しゃばってしゅみましぇん。」
とりあえず謝っとこう。噛んじゃったけど。
「プッ。アハハハハハハッ」
クラスの中心人物的存在の深水世莉が大笑いしている。
クラスのみんなもクスクスと笑い出した。
え、何陽キャ怖い...。
「いやー、マジビビるわ。よっしー真面目だし、静かだしぶっちゃけ美人なだけでつまんねぇーって思ってたからさおもろすぎて。あー死ぬ。もーよっしー最高すぎん?笑笑」
「えっ?」
予想外の出来事に戸惑ってしまう。陽キャでギャルな深水さんめっちゃ良い人でした。
「あと、誰だっけそこの朝雲くん?まじごめんねぇ。私もこの見た目だからさ、ちょっと気持ちわかるわ。みんな悪気は無いと思うし、許してくれない?ほらみんなあやまろう?」
「朝雲、ごめん。」
「朝雲くんごめんなさい。」
クラスのみんなが一斉に謝り出す。
「いや。全然。俺も怖がらせてごめん。つーか、俺、朝霧...」
またもやクラスに笑い声が溢れる。
みんなこんなにいい人たちだったなんて。私は、自分で周りと壁を作って勝手に独りだと思ってただけなのかもしれない。
「よっしー、私たち友達だから。世莉とも話してよ。あ、行けねぇ彼ピ迎え来たわ。世莉ここでお暇するー。みんなまたねー!」
「俺らも部活だっ。行くぞ。」
みんな帰っていく。
「尊くん、私たちも帰ろっ。」
「おう。」
「お前さ、まじで無茶すんなよ。俺は何言われてもいいけどさ、俺のせいで千歳が何か言われたり、されたりするのは嫌だ。ま、今回はクラスのヤツらめっちゃいい人だったから良かったけどさ。まじで、気をつけて。」
「だって私の大切な友達を悪く言われて黙ってろなんて出来ないよ。」
「千歳って泣き虫で弱くて寂しがり屋だけどさ、本当は強いよな。ありがとう。俺千歳に救われてばっかだな。マジだせぇ。」
「ううん。尊くんはかっこいいの。優しくて暖かくて太陽みたい。私は尊くんがいるから強くなれるの。こちらこそありがとうだよ。」
夕日のせいかな?尊くんの目が光っている気がした。