「学校に行きたくない。」
ただただそう思う。高校二年生にもなってみっともないだろうか。
私は春が嫌い。新学期、別れ、新しい環境、自己紹介、友達作り...
やっと1年ぼっちでも頑張り抜いたのに、また新しい孤独な1年がやって来る。
どうせ2年生でも友達が出来ずに浮くのだろう。
それならと私はいつものお気に入りの場所にやって来た。
私の曇った気持ちとは裏腹に大空は晴れ渡っている。
私は今まで学校を一度も休んだことはない。
1日でも休んで仕舞えばずっと休んでしまう気がするから。
そんなことを考えていると私は学校に行く反対の道を歩いていた。
何やってるんだと思いながら振り返ろうとした時、坂の上から桜の花びらが降ってきた。
坂の上に桜が咲いているのかとほんの少し興味が芽生え体が勝手に坂の上へ一歩また一歩と歩み出す。
坂の向こうがいよいよ見えた時、そこには1本の桜の木が1人寂しそうに立っていた。
綺麗...こんなところがあったんだ。高台にあるこの公園は、私のまちを見下ろすことができ、とても綺麗だった。
私は桜の木の下に寝転んで大空に浮かぶ桜を眺める。
あと少しだけ...そう言い聞かせて瞼を閉じる。こんなに心が落ち着いたのは初めてだ。
たまには、学校さぼってもいいよね?どうせ友達出来ないだろうし。
私は春の心地の良い暖かさにいつの間にか眠っていた。
んっ...今何時?
太陽が南の空に高々と登っている。暑い...
もうお昼か。気持ちよかった。ここ、人全然来ないし私だけの秘密の場所にしよっと。
「桜さん、ひとりぼっち同士宜しくね!」
私は人生で初めて友達が出来ました。桜の木。一応生き物。
それから、晴れの日の放課後は大抵この場所で時間を潰した。
桜の花びらが散り始めた頃、私はまた人生で2回目のサボりをした。
「桜さん、聞いてよ。クラスのね友達がやっぱり出来なくて、今日はグループ活動があったの、私が世界で3番目に嫌いなやつ!そしたら案の定残るじゃん。そしたら先生が、まだ友達ができてないのか。誰か友達くらいなってやれよ。って笑ったの!みんなの前でだよ?おかしくない?みんな爆笑してたし、気も遣われたし、もう死にたい。もう、学校行きたくない。」
「そりゃ可哀想だな。俺がなってやろうか?友達ってやつ。」
え、誰?
「え、桜さん話せるの...?」
「残念ながらちげーよ。こっち。」
桜さんがついに話せるようになったのかと感動していたら、桜の木の後ろから男の子がこちらを覗いていた。
怖っ。金髪に高い背。180位ありそう。ピアスも空いている。絶対関わっちゃいけない人だ。
私の中の危険サイレンが激しくなっていた。
顔が青ざめるのがわかる。
「おい。どーした?」
「ひっ、しゅみましぇんっ!ゆりゅしてくだしゃっ。」
「そんな怯えなくても。俺お前を殴ったりしねぇって。」
「あ、はい。」いい人、なのか...?
いや、千歳しっかり!騙されないぞ。
「俺、朝霧尊。よろしく。」
「あ、三好千歳です。よろしくお願いします。」
名前、言うか迷ったけど朝霧くん?も言ってくれたし大丈夫だよね?
「うん。知ってる。てか、同い歳出し敬語禁止な。」
「えっ?なっ、しっ。」
ぶっ。クククッ。
「なんで知ってるかって?」謎の少年朝霧くんが大笑いしている。切れ長の目にスっと高い鼻、薄い唇。笑った顔はクシャッと目尻にシワができてなんと言うか可愛い。
「うん。なんで?」
「だって俺たち同じクラスだよ?知らなかった?」
「え、同じ、クラス...同じクラス?えーーーー!」
ブァッハッハッハ。
また、大笑いする朝霧くん。目尻の涙を拭っている。
「朝霧くんっ!ちょっと笑いすぎっ」
「悪ぃ悪ぃ。お前ちょーおもしれー。」
そんなに笑う?もー恥ずかしい。
「ちょ、朝霧くん笑いすぎ。」
「みこと。」
「え?みことって呼んで欲しい。だって俺ら友達だろ?」
「友達...?いいの?私なんかが友達になって。」
「なんかってなんだよ。俺が友達になりたいから言ってんの。」
「うん。ありがとう。」
嬉しくてほんの少し泣いちゃったのは内緒。
「そういえば尊くん、学校来ないの?」
「まあ、いってもどうせ...」
尊くんの顔が曇った気がした。
「無理に言う必要は無いよ。もし、何か打ち明けたいなって思ったら私なんでも聞くから。」
誰にだって隠したい事はある。
「千歳は昔から変わんねぇな。」
「え?」
「いやなんでもない。よし、そろそろ帰ろう。送ってく。」
「いいよ。私の家ここから近いし。」
「遠慮すんなって。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お願いします。」
その日から私は毎日尊くんと他愛もない話をした。
「ねえ、尊くん。その怪我、どうしたの?大丈夫?」
「おう。こんなの大したことねえよ。ちょっと考え事してたらすっ転んだだけだ。」
「えー!?大丈夫なの?もう、気をつけてよ。」
私は尊くんの見た目からは想像もつかない抜けてるところを知り可愛くて笑ってしまった。
「な、なに笑ってんだよ。」
顔赤くなってる。
「だって可愛いんだもん。」
「か、可愛いだと。お前ちょ、調子乗んなよ。」
耳まで真っ赤。最初は怖いと思ったけど、優しくて暖かくて可愛い。
私は尊君とのこの時間がいつの間にか1番の楽しみになっていた。