家出少女の反抗


「ほら、行くぞ。付いてこい」


そう言われて鹿田先生の大きな背中を先頭に、生徒指導室に向かう。

すべてを知った気になっている、先生と一緒の時間を過ごすことになった自分を恥じていた。


不覚だなと反省していたら、私の頭脳に疑念が飛び込んだ。

思い出したのは「今年鹿田先生が、結婚した」というニュースが頭をよぎる。



つまらない体育の授業。



終礼時間の頃だったと思う。


「絶対にお前鹿田先生のこ誂っているだろ!!」と思うクラスメイト「内」のマドンナ、「相原花音」が「鹿田先生、結婚したんですよね?」という声掛けから始まった。




ノリで祝福されている事に気がついていない、鹿田先生は「お、校長から聞いたのか?実はそうなんだよ〜」と照れ笑いしながら頭を掻く。




ーーこんなやつでも、結婚ができるのか……世も末だな。




そんな事を念頭に思いながら「鹿田先生の奥さんとの出会い」や「俺は妻を生涯に誓って、愛す!!」みたいな臭すぎる迷言の数々を、長々と話される。

苛々が頭の中で煮えたぎって、地熱で倒れてしまいそうだ。


ハイエナに食われてもおかしくないこの鹿田先生が、平凡とした幸せを噛み締めていることに対し納得がいかない。


相変わらず、恵まれていて御苦労なこと。


せいぜい「生徒」に救われている事や大目に見られているってことも知らないでさも「俺は自分の手で幸せを、掴んがんだ」と豪語するその神経は、リスペクトすべきなのか。


神様というのは、不思議だ。



こんな人間にも「人権」というのをお与えになるなんてーーどんな思考回路をしてるのか、覗いてみたくなる。


まぁ「池の中の蛙、ハネもせず」とはこのことだから、大げさに考えなくてもいいのかも。

嫌味もろとも大きな拍手で、出迎えてやりたい気分は拭い去れないけれど。


鼻で吹き飛ばしてやろうとしていた頃。



ふと、その時思ったのだ。




「鹿田先生、愛ってなんですかね?」



私は先頭にたって「今からこの生徒にどうゆう説教をしよう」と考えている「愛」とは程遠い存在の先生に向かって、そう口にしていた。


こんな自分の事しか眼中にない自己中心的な人間でも一般相応の「幸せ」や「愛」を分け与えられるのなら、「幸せじゃない、まやかしの愛」を受けている私は一体何なのだろう?



視界が一瞬、暗転。



幼少期からされていた「あの生々しい場面」が走馬灯のように、走り去る。


息を飲んだ矢先目の前には豆鉄砲を食らって驚いた目つきをした、鹿田先生の姿が。


鹿田先生は一瞬目を見開いて私の顔を見た後、「はぁ?」と顔を顰めた。



「やっぱり、なんでもないです」




ーーこの先生に聞いても、わかるはず無いのに……何を馬鹿なことを。



私は何食わぬ顔をして「生意気な事を次言ったら、もう1ページ反省文書いてもらうからな」と憎まれ口を叩く鹿田先生の嫌味を、左から右に。



そうでもしなければ、鹿田先生に負けたみたいで悔しいからだ。





二時間以上の説教の末、やっと「反省文を2枚以上書け」と命令が出た。




「俺は、他に仕事があるから……その間にちゃんと終わらせろよ。ただでさえ忙しいのに、お前の為に時間は使ってられないんだから」


この通り、ウザい。


この一択に尽きる。


「本当に時間がない人間」は、説教に二時間以上の時間を費やしたりしない。



呆れながら「はい、わかりました」と表面上「反省してます」みたいな表情を作り、頭を下げる。





今は、午後の5時半。




夕日がしっかり沈みスミレの花を潰して塗りつぶした様な、暗闇の上に金色の月が浮かんでいる。




今は冬の時期だから日が沈むのは、あっという間。




お陰で生徒指導室の中は体全身が氷漬けにもされているのではないかというくらい、震える。



少しぐらい、ストーブを付けてくれてもいいのに。