どこか知らない煙草の銘柄を聞かれた。
ーー絶対興味ないくせに。
「〇〇ですね」
パッケージに書いてある言葉をそのまま、オウム返し。
まるでそれに気づかないかのように、「お前みたいなやつが、そんな高価な煙草を吸うなんて体に毒だぞ」と呆れながら説教。
ーーー「お前みたいなやつが」って、ちゃんとした「霞」って名前があるんだけど!!
鹿田先生のこういうところが、鼻につく。
どんな神経をしていちいちそんな事を言ってくるのか、理解出来ない。
喉から声が出そうになったが、ぐっと堪えて「はい、……全くその通りですよね。反省します」と嘘の方便。
人は口ではいくらでも言えるって、本当なんだな。
私の口から「反省してます」なんて言葉出てくなんて、考えもしなかった。
でも敬語にしているのは、早く鹿田先生の説教を早く終わらせたいからだ。
これは先生に限った話ではない。
相手方の怒りが中々収まらないときは敬語を多く使うことで、気持ちの静まりが早くなりやすい。
これは日々のこの学校から得た豆知識でよく苦手な人に対して、この方法を使っている。
私は案外こういうときにだけずる賢くて、立ち回りはうまい。
でも……今回はどうだろう。
話の展開が、読めないし厄介なんだよな……。
というか銘柄なんてパッケージ見れば分かるのに、何でいちいち聞いてくるだろう?
ひょっとして、凄い誂われてるのか?
だとしたらウザそうに顔を顰めてこちらを睨みつけ、舌打ちをすることもないか……。
ひょっとしたら鹿田先生は相当なバカで、後先なんて考えてない可能性も捨てきれない。
ーーってことは?
ちょっと私の中で、気持ちが軽くなる。
ーーいい方向に行ったりする?
一瞬私の中で光の筋みたいなのが、頭上におりてきた。
晴れやかな天使の羽が、背中からゾワゾワと生えている。
だがそう思うのも、つかの間。
翼は、へし折られた。
暫く考え込む鹿田先生は、間をためた後「指導室に来い。反省文を書いてもらう」と連行宣言をしたのだ。
人は思わせぶりをされて振られると、立ち直れないとはこのことだ。
ーーえ……、なにか夢でも見てる?
真っ先に頭の中で浮かんだ言葉は、それだった。
其処らにあった石を鹿田先生の頭にぶつけて、かち割ってやりたい。
ーー無駄にいい兆しが来る前フリ、なくても良かったのに、期待させるな!!
この鹿田先生に、この暴言を吹きかけてやろうか。
皆に陰口を言われている理由が、この返答により少しわかった気がする。
もう少し考え込むのなら、捻った指導法を考案してほしい。
この鹿田先生と二人きりになって二時間近くであろう説教を聞かされた挙げ句、反省文を強要されるとはーー。
下手な怪談より恐ろしい。
いっそ、死んだほうがマシかも知れない。
でも、どうしたって変わらない事実であること。
否定出来ない。
ーー元々煙草を吸っていた私自身の問題でもあるし、仕方ないな。


