それだけはーー踏ん張らなければいけない。
1人で育ててくれた恩師あるお母さんを背くことなんて、良心が痛む。
潤がいなくなった、暗い部屋。
そっとこの部屋の中に隠した、荷造りをした黒い子供二人分ぐらいあろうキャリアケースを引っ張り出す。
ベッドの下に隠していたのにもかかわらず、これに気付かない潤はやっぱり単純だ。
きっと理性なんてものが働いてない、欲望に囚われた妖怪なのではなかろうか。
「このキャリアケースに……お母さんの荷物も全部入れたからーー後は逃げるタイミング………」
でも、いつ逃げればいいのだろう……。
お母さんは仕事が忙しく、戻ってくるのが朝の四時半。
力仕事だということもあって、疲れているのに時間的に野暮だ。
休みの日は、潤と無理やりホテルに詰め込まれーー後の祭り。
勿論母親に、巧妙な嘘をつかれてしまい連れ出される。
こういうときにだけ、ずる賢さを使い回すなんて跡に引けない。
「……ギリギリ出来るとしたら………今日………」
キャリアケースをパタンと音を立てて仕舞い込み、そっとその場にたった。
行動するならーー今日ーーー今この時間しかない。


