暗い住宅街の一角。


ネオンが光り輝く街とは違って、何処か殺伐としている。


この街から誰もいなくなってしまったのでは無いのかと心配になるくらい、人の気が無い。



バスから降りた先。


古めかしいマンションの部屋に、足を止める。



チャイムを押したが、誰も出ず。


ーーまぁ、そうだろうな……。



鍵を回して、扉を開ける。




靴を脱ぐ玄関を通り過ぎ、リビングにつく。




無印良品で買ったようなシンプルな机に、置き手紙がおいてあった。


何だかこの文面を見る瞬間だけは胸が誰かに搾り取られているかのごとく、息が吸えない。


寂しさと心苦しさに、押し潰されそうな感触になる。


「冷蔵庫に冷凍食品があります。レンジでチンして食べてね」




置き手紙には、そう書かれていた。





「せめて手作り料理の一つや2つ、作ってくれてもいいのに……」




でも母親は仕事が忙しいから、そんな願望も届くことはないだろう。




これはエゴだから、我慢するしか方法はない。




冷蔵庫を開けて冷凍食品の、うどんを取り出しレンジで温めようとした。



その頃だった。





「なんだ、霞ちゃん。帰ってきたのか」



低い気取った耳の裏が、ゾワゾワするような声音で話しかけられた。



出来ればこの男の声は、聞き入れたくないのだがーーそれも今日は不可能みたいだ。




発狂してやりたいが、それは逆に火に油を注ぐような気がして留まった。


わざとらしく、ため息を吐き出して後ろを振り返る。



眼鏡をかけたちょっと小太りした50歳ぐらいの中年男性で、母親の恋人でもある坂本潤がそこにいた。


「自分がいかにいけている人間」か、勘違いしたその姿はとても鼻につく。




ーー気持ち悪い。どうやったらこんな人に育つの?



感想は、それだった。



「僕も、今帰ってきたばかりなんだ。ついでに一緒に作ってくれないかい?」



何でこんな人のために作らなければならないのだろう……。




机に座り身の毛がよだつような笑みを浮かべた潤を横目に、レンジでうどん2人分を解凍。




潤の目の前にうどんをおいて、私は自分の部屋で食べようと席を外す。




「ちょっと、待ってよ。霞ちゃん」




腕を掴まれた。



最悪……。




話したくないのに……。