私は義母が嫌いだ──。

 だって、義母は私を嫌いだから。

 私を産んだお母様は、絹のように美しい金髪に、サファイアのような輝きの瞳を持った母は、社交界でも評判の人だった。
 そんな金髪を受け継いだ私は、お父様にも、そして5歳年上のこれまた見目麗しく、日々ご令嬢の評判になっているお兄様からもきちんと愛情を受けて育った。
 しかし、お母様は私が10歳になった翌月に流行り病にかかり、そのまま亡くなってしまった。
 お母様を大変愛していたお父様は、むせび泣き、墓石に頬を擦り寄せて別れを惜しんだ。
 そんな姿を後ろから見つめていた私の手を、お兄様がぎゅっと握りしめた。

『大丈夫、フェリスのことは僕が守ってみせるから』

 そう呟いたお兄様を見上げると、唇を噛み締めて涙を堪えていた。

 お母様が亡くなって一年が過ぎた頃、我がルーベリア公爵家に新たな人物がやってきた。

「これからは、このアリアがお前たちのお母様となる。仲良くしてほしい」

 アリアという名でお父様に紹介された人物は、何も言わずにお辞儀をして私とお兄様に挨拶をした。
 義母はお母様より背がうんと高くて、美人な面持ちだった。
 お母様のようなウェーブのかかった髪ではなく、真っすぐで真珠のような色。

「よろしくお願いいたします、アリアお義母様」

 そう言って挨拶をしたヴィラートお兄様は、私にも挨拶を促したが、まだ気持ちの整理がつかなかった私は何も言わずにその部屋を後にした。

 義母をそれからしばらく観察していたが、どうやら彼女はお父様の部下だったらしい。
 お父様は王宮で経理部門の責任者をしているが、その部下の一人が義母。
 女性で部門働き、いわゆる士官として一定の社会的地位を得て働いている人は少ない。
 義母は類稀なる賢さを見出されて、子爵令嬢でありながらその地位を得たそう。
 そんな彼女がなぜうちに嫁いできたのか、私はいまだに謎だった。