白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


夕映はごくりと生唾を飲み込んだ。
だって今まさに、隣りに座る彼がすらすらとサインしているではないか。

見るからに次元の違う指輪(これ)
幅広の甲丸タイプの土台に、スクエア型にカットされた一粒石のダイヤがあしらわれている。
恐らく、仕事に支障をきたさないようにと考えて選んでくれたものだろう。

……いや、違うかも。
これって、既製品だよね?
まかり間違って、オーダーメイドとか言い出さないよね。

こんなハイクラスのジュエリーを身につけたことがない夕映は、今自分が置かれている状況が呑み込めずにいる。

「お忙しい中お越し下さり、誠にありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「帰るぞ」
「え?…あ、はい」

放心状態の夕映を見下ろす采人。
片方の口角をきゅっと持ち上げ、エスコートするように夕映へと手を差し伸べる。

店内にいるスタッフ総員に見送られる。
これはこれで気恥ずかしい。

いや、問題はそこじゃない。
何故、彼とこの店に来たのか?ということだ!

ショップを後にした采人と夕映は、表参道の通りを歩く。

「あのっ、一つ質問していいですか?」

夕映は足を止め、采人の背中に向かい声をかけた。

「一つでいいの?」
「へ?」
「五つくらい聞きたいんじゃない?」

振り返りながらクスっと笑った采人は、夕映の左手を掴んだ。

「中に刻印して貰ってるから、返品はできないよ」
「っ……」
「ダイヤはもちろん本物だし」
「っっ…」
「指輪のサイズはお母さんに教えて貰った」
「ッ?!!」
「仕事に支障がでないデザインにしたけど、嫌だった?」
「べ、別に……嫌とか、そんなんじゃ…」
「じゃあ、気に入って貰えたってことで」
「っっっ……」

しまった。
気に入る、気に入らないではなくて、そもそも受け取れないと言うべきだったのに。