医局を後にし、正面玄関に行くと、総合窓口の前にあるソファに彼女の姿を見つけた。
「今日は早番だったの?」
「お疲れ様です。今日はオフだったので」
スッと立ち上がった彼女はいつもの垢抜けた感じはなく、少し疲れた顔つき。
「何が食べたい?」
「何でも大丈夫です」
「洋食と和食なら?」
「……できれば、個室の所が…」
「了解。じゃあ、行こうか」
周りにいるスタッフの視線が気になり、彼女の背中に手を回し、駐車場へと移動する。
車を発進させる前に顔なじみの店に連絡を入れ、個室を確保した。
車で十五分ほどの場所にある海鮮和食処『きのした』。
旬の魚介類をふんだんに使ったミニ懐石が人気の店だ。
「お任せでいい?」
「はい」
「じゃあ、女将さん、適当にお願いします」
「お酒は?」
「車で来てるので」
奥座敷の個室に通された采人と夕映。
神坂家が贔屓にしている店とあって、メニューを開かなくても安心して食べられる。
「相談事があるんだろ?」
「何で分かるんですか?」
「顔に書いてある」
采人は手のひらを顔の横で上下に振り、雰囲気を和ませる。
「で?どんな相談事?」
「……あのマンションの防犯カメラって、見ることができますか?」
「ッ?!……どういう意味?何かあったの?」
「実は…――…」
神妙な面持ちで話し始めた夕映。
三日前の金曜日にあった出来事を話し、翌朝の夜勤明けで帰宅する際にどこからともなく視線を感じたらしい。
更には日曜日の出勤の際に最寄り駅で、その搬送されて来た彼と偶然にも居合わせ、声をかけて来たという。
そして、今日。
久しぶりの休日で買い物しようとマンションを出た所で、再びその彼と出くわしたらしく。
明らかに待ち伏せしているようにしか思えなくて、怖くてマンションに帰れないと言い出した。



