とある日の二十一時過ぎ。

「先輩、搬送要請です。二十代男性、薬物大量摂取による中毒症状、意識混濁の状態、受け入れどうします?」
「奥のベッド空いてるよね?」
「はい」
「じゃあ、受け入れで」
「了解です」
「沢田さん(夜勤ナース)、胃洗浄の準備と心電図の準備もお願い」
「はいっ」
「先輩、五分後に到着予定です」
「了解」

都立江南病院のER室に緊張が走る。
夜勤担当の夕映と研修医の長野、看護師は沢田と深町、合計四人で対応する。
四人で手に負えないと判断した場合、夕映から他の医師に連絡が入る仕組みだ。

輸液や洗浄用注射器などの準備を施しながら、数時間前に搬送されて来た患者の様子を見て廻る夕映。
今安定している状態でも、処置中に容体が急変したら対処しきれなくなるからだ。

要請を受けてから三分が経過。

「長野君、搬送口をお願い」
「了解です」

長野は看護師の沢田と共に救急車が横付けされる搬送口へと向かう。
夕映は毛布を多めに用意し、ベッド周りの準備に漏れがないか最終チェックを行う。
薬物中毒に陥ると、体温が低温状態になっている可能性が高いからだ。

ストレッチャーがER室へと運ばれて来た。
救急隊員から患者の情報が引き継がれる。
摂取したと思われる薬剤のボトルを確認し、脳内で速やかに処置プランを立てる。

「ん?……この人…」
「黒瀬先生…」
「とりあえず、洗浄してから」

看護師の沢田が夕映に視線を寄こした。
彼女は勤続二十年のベテランだ。
ER室内で起きていることをほぼ把握していて、研修医の長野よりERスタッフとしての貫禄がある。

夕映は付き添いのご家族に胃洗浄の説明をし、同意を求める。
同意書に署名されると、すぐさま胃洗浄処置が施された。

心電図、血圧、体温、酸素飽和度など基本のバイタルチェックが手早く行われる。

「電解質異常調べるから、採血もお願い」
「了解」