白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

(采人視点)

『いい人、見つけたな』

無事に祖父母から結婚への了承を得た采人。 
気を抜くと頬が緩んでしまいそうだ。

マンションの駐車場に車を止め、彼女と初めて夜の散歩を楽しむ。
夜風に靡く彼女の髪から、ふわっと花の香りが鼻腔を掠めた。

「婚約する際に、相手側と交わした約束事があるんだ」
「……約束事?」
「あぁ。『どちらかに結婚したい人が見つかったら、婚約を解消する』という契約のような約束事だ」
「……っ」
「当時、高校一年の彼女にしたら、父親と大して変わらない歳の男と結婚を迫られてるわけだから、向こうが出したこの条件を無条件で受け入れる形で、俺は婚約した」

俺の説明に困惑の色を覗かせ、彼女は足を止めた。

「さっき、なぜ祖父母に会わせたのか?って聞いたよね」
「……はい」
「今、君が考えてる通りだよ」
「……っっ」
「君と結婚したくて祖父母に会わせた」

――沈黙。
その沈黙が、俺の中の欲を煽る。

失恋したばかりだから、少しは猶予を与えてやろうと思ったが、今すぐ俺のものにしたい。
見れば見るほど、知れば知るほど欲しくなる。

風に靡く髪を押さえている彼女の手に自分の手を重ねた。
自然と視線が絡み合い、黒々とした瞳に俺が映る。

「結婚したいなら、俺にしろ」
「っ…」
「絶対、後悔させないから」
「……」
「拒否らないってことは、望みがあると取るよ?」

一瞬、彼女の瞳が揺れた。
まるで、心の奥にしまっていた何かが、ふと顔を出したように。

“そんなこと、言われるはずじゃなかったのに”
“でも、嬉しいとおもってしまった自分がいる”
――そんな声が、彼女の沈黙の中から聞こえた気がした。

俺の言葉に心が揺れている。
それだけで、十分だ。

「仕事も恋愛も、俺なら全て叶えてやれる。俺の元に来い」

この手で抱きしめてしまえば、もう後戻りはできないと分かってる。
でも、もう止まれない。
彼女の全てが、俺を狂わせる。

もう片方の手を腰に回し、彼女の体を抱き寄せる。

「俺じゃ、不満か?」
「……そ、そういう問題じゃ…」

俺の行動に動揺を隠しきれない彼女は、体をのけぞらせ顔を背けた。
悪いな、抵抗されると俄然燃える性格なんだよ。

親指の腹で彼女の唇をそっとなぞる。

「この口から、『結婚したい』と言わせてやる」