白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


彼には婚約者がいる。
『結婚』する気がなくても、現時点では婚約者持ちだ。

そんな彼と食事だなんて、どう考えてもおかしい。
自宅に招き入れることだって、到底理解しがたい状況なのに。
彼の持ち家だから、不条理だと分かっていても言い返せない。

「浮気じゃなくて、本気だと言ったら?」
「……へ?」
「それに、俺が婚約者以外の女性と食事したくらいで、彼女は何とも思わないよ」
「そんなこと分からないじゃないですか」
「分かるよ」
「何故、そう言い切れるんですか?」
「……フッ、それが知りたかったら、食事に付き合って。十八時に迎えに行くから」
「っ…」

言い返す言葉も出て来なかった。
場数の違いは歴然としているのか、彼のあしらい方に完全に呑まれてしまった。

はっきりきっぱりと断りたい。
けれど、両親に合わせて貰い、自宅まで借りている手前、強い態度に出れない。
というよりも、一度きちんと御礼をすべきとさえ思っている夕映は、スマホを握りしめ溜息を漏らした。

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「あっ、あの…」
「ん?」

約束通り、十八時に迎えに来た采人。
いつもと変わらぬ王子様フェイスで軽快に車を運転する。

初めて彼の運転する車に乗車した夕映は、話しかけるタイミングを見計らっていた。
信号待ちで停車したタイミングで、鞄から包みを取り出す。

「家のことや両親のこととか、……諸々の御礼です」
「俺に?」
「……他に誰がいるんですか」

早番上がりの夕映は仕事帰りにとあるショップへと足をのばし、采人への御礼の品を購入したのだ。

「中身は判子付きのボールペンですから」
「……フフッ、医師事情に精通しているようで。ありがとう、助かるよ」