とある日の夕方。
「おーい、今から木曜恒例、薬剤収納戦始めるぞ~。やりたい奴いるか~?」
「やりますっ!!」
「おっ、長野、やる気だな」
「昼飯がかかってるんで!」
「フフッ、分かりやすい奴」
毎週木曜日は薬品の搬入日になっていて、昼過ぎに届いた薬剤を夜勤スタッフが出勤する前に片付ける必要がある。
その為に、日夜忙しい救急診療科では、薬剤管理の担当になっている戸部先生が身銭を切ってスタッフのやる気と薬剤の把握を底上げするために『昼ご飯』を賭けて競い合わせるのだ。
通常、スタッフ一人で処理すると小一時間かかる作業が、競い合わせることで十分強で完了できる。
この競争を始めてから、通路を占拠する台車が邪魔することがなくなったし、片付け終わらずに夜勤スタッフに迷惑をかけることもなくなった。
「私にやらせて下さい」
「黒瀬、珍しいな」
「今日は早番なので、これで仕事上がりにします」
「じゃあ今週は、長野と黒瀬の勝負な」
「先輩、負けませんよ?」
「五年目を舐めないで貰えるかな」
研修医二年目の長野は長身で、脚立を使わずして上段の棚に薬剤を並べることができる。
その点においては夕映に不利な状況だが、医師五年目の夕映は、外装(段ボール)を見ただけで中に何が入っているのかほぼ把握している。
消費した薬剤を把握している夕映は、何をどれくらい発注しているのか分かっているのだ。
「じゃあ、始めるぞ?」
「はい」
「お願いしますっ」
「始め!」
戸部医師の掛け声でスタートした薬剤収納戦。
夕映は迷うことなく長台車に積まれている外装を開けた。



