(采人視点)

「ごめんなさいね、わざわざ下まで送って頂いて」
「いえ…、このマンション、エントランスの警備が厳しいので」

部屋に夕映を残し、采人は彼女のご両親を見送るためにマンションの下まで付き添う。

目鼻立ちが整い、すらりとした容姿は母親似。
口数が少なく、我慢強い性格は父親似のようだ。
エレベーターの中で、彼女との共通点を改めて探してしまう。

彼女のご両親は、代々続くうどん屋を昔ながらの製法を守り継いでいるという。
これまでも、大型商業施設への出店や都内への移転の誘いは数知れず。
けれど、水や小麦粉など、地元ならではの素材を大事にして来たという。

時代の流れや周りの圧力にも屈しない精神が彼女にも刻まれているのだろう。
この両親あっての彼女だ。

「あの子のこと、どうか見捨てないでやって下さい」
「見捨てるだなんて、とんでもない。私の方が惚れ込んでるので」
「物わかりよさそうな態度を示すけど、あの子、どうしても及び腰になるところがあるから」
「ご心配には及びません。夕映さんのことを諦めるつもりはありませんから」
「そう言って貰えると、安心して田舎に帰れます。ね、お父さん」
「……ん、そうだな。夕映には君みたいにしっかりしてる人が傍にいてくれたら、安心できる。帰ったらすぐ送るから、良かったらご家族の人にも…」
「ありがとうございますっ!家族も喜びます」

近くのコインパーキングに駐車しているらしく、『ここでいいから』とエントランスでご両親を見送った。

「さて、俺も帰るか」

『ご両親をちゃんと見送ったから安心して』と夕映にメールを送り、采人はマンションを後にした。