白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです



「神坂さんは、お夕食はもうお済ですか?」
「いえ、まだですが」
「大したものは作れないんですけど、良かったらご一緒に如何です?」
「宜しいのですか?」
「えぇ、もちろん」
「では、お言葉に甘えて頂きます」
「夕映、伸びちゃうから先に用意しましょ」
「あ、うん」

石化する父親と彼をリビングに残し、キッチンへと戻る。

「物凄いイケメンじゃない」
「……ん」
「優しそうな彼ね」
「……ん」
「お父さんは口下手だからはっきり言わないけど、同棲も結婚も、お母さん達反対しないから安心しなさい」
「どっ……(同棲?結婚??)」

母親の口から飛び出した言葉に、うどんを茹でる夕映の手が止まった。

前のマンションから急に引っ越しし、この家に来た理由を完全に勘違いしている。

一人住まいにしては広すぎる間取り。
ファミリーで住んでも十分な広さはあるし、家具家電は既に揃っている。
救急医という不規則な勤務体制も理解力がある医師仲間であり、同世代の男性。
見るからに育ちの良さが滲み出ている所作と、物腰柔らかな話し方。
挙句の果てには女性のハートを鷲掴みする甘い微笑みが加味されて、母親の脳内は既に『娘の結婚相手』として判断したようだ。

「夕映がずっと紹介してくれなかったから、どういう人かずっと気になってたんだけど、お互いに医者なら紹介する時間もなくて仕方ないわよね」
「っ……」

何年か前に上京して来た際に、元彼の私物がバレて、彼氏の存在自体は知られていた。
あの時はまだ若かったから、深く考えもしなかったけれど。
母の中ではあの時の彼が、今の彼?(神坂医師)と全く同じというミスマッチ。
いやいや、彼は彼氏でもないんだけれど。

別れた事実も、今更別れた理由を聞かれても面倒だ。
かと言って、神坂さんとの関係を説明するのも微妙なのに。

一体、私はどうやって今夜を乗り切ればいいのだろうか?