白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「本当に何でも揃ってるのね」
「変に触って壊したりしないでね?」
「大丈夫よ、主婦歴何年だと思ってるの?」

持参した生うどんを茹でながら、隣りで手際よく天ぷらを揚げる母親。
父親はリビングでプロ野球を観ていた、その時。

開けっ放しのリビングドアの先から、ピピピピピッと軽快な電子音のようなものが僅かに聞こえた。
まずいっっっ!!!

うどんを茹でていた夕映は菜箸を置き、一目散に玄関へと向かった。

「おっ、いたんだ。夜勤かと思ってたんだけど……って、誰か来てるの?」

玄関のドアがガチャリと閉まり、足下に置かれている靴を視界に捉えた彼が足を止めた。

「……今、両親が来てて」
「……ご両親が?」
「数日前に宅急便を送ったらしくて、引っ越した後で宛先不明で送り返されてしまって。昨日職場にクレームの連絡があって、仕方なくここの住所を教えたんです」
「あぁ、なるほど」

状況を理解した彼はクスっと笑みを零し、小さく深呼吸した。

「初めまして、神坂 采人と申します」
「お時間がおありでしたら、上がって下さい」
「……では、お言葉に甘えて」
「ッ?!!」

いつの間にか夕映の背後に立っていた母親。
夕映の肩越しに見るイケメンスーツ姿の采人に、早くもうっとりとした様子。

ソファに座る父親は采人を見て、石化したかのように固まった。

「改めまして、神坂総合病院で外科医をしております、神坂 采人と申します」

采人は夕映の両親に自身の名刺を差し出した。

「夕映から、知り合いの医師からお借りしてるって聞いてるんですけど、もしかしてこちらのお宅は、神坂さんの…?」
「はい。……お恥ずかしながら、自分が所有している家の一つです」