白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

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「ちょっと、お母さんっ!勝手にあちこち触らないでよっ!!」
「えぇ~、いいじゃない。ここに住んでるんでしょ?」
「住んでるって言っても、家具家電全てお借りしてる物なんだってばぁっ!」

職場に電話があった翌日。
夕映のスマホに『今、マンションの下にいるから』と物凄いテンションで母親が電話をかけて来たのだ。

荷物を送るために教えた住所が、思わぬ展開に陥っている。
夜勤明けで医局にいた夕映は、仕方なく急いで帰宅した。

『知り合いの医師から部屋を借りた』と説明した夕映。
その相手が誰だとか、どういう関係かだなんて一言も言ってない。
だから、ただ単に荷物だけ送ってくれればよかったのに。
何故、いきなり了解もなくやって来たのだろうか。

「突然来るなんて、初めてじゃない」
「そうだったかしら……?」

学生の頃まで遡っても、上京する時は事前に『〇日に行くから』と連絡があったものだ。
突然の両親の行動に、夕映は動揺を隠しきれない。

超高級タワマンの間取りに呆気に取られる母親。
最新の家電とセンスのいい家具だけでなく、高層階からの眺めに恍惚の表情を浮かべている。

「夕映」
「……お父さん」
「ごめんな、急に来たりして」
「……ん、夜勤明けだったからいいんだけど」
「荷物を送ろうと場所を調べたら、都会のど真ん中だったから、お母さんが行くって聞かなくて」
「……だよね」

母親は思い立ったらすぐ行動の人だ。
のほほ~んとしている父親と、何事にもガンガン突き進む姿勢の母親。
これで絶妙なバランスを取っている夫婦なのだ。

「車で来たから、職場の人用にも沢山持って来たよ」
「いつもありがと。戸部先生が楽しみにしてるみたい」
「そう言って貰えると嬉しいね」