白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


医師として三十歳を迎えるなら、ちょうどいいと言いたいのだろうか?
それとも、彼にとって女性の友人を作るなら、ちょうどいい年齢ということだろうか?

「いただきます」

どういう意味合いで聞いたのかさっぱり分からないが、彼は普通に食べ始めた。

「……いただきます」

男性と二人きりで食事するのが珍しいわけじゃない。
いつも医局で他の男性医師と二人きりになることなんてザラだし、それこそ夜勤の時なんて何時間も二人っきりなんてこともある。
けれど、何だろう。
纏う空気が違うというか。
神坂医師の纏う空気は、経験したことのないような独特の空気感がある。

「神坂さんはお幾つなんですか?」
「……三十三」
「今年、三十四?」
「ん」
「四歳年上なんですね」
「そうだね」

この前ラーメン食べた時も思ったけど、箸の持ち方が綺麗だ。
すらりとした指先に見惚れてしまうというのもあるけれど、幼い頃にしっかりと躾られた賜物だろう。

「好き嫌い聞くのを忘れたけど、食べれないものとか無い?大丈夫?」
「はい、大丈夫です。好き嫌いはありませんから」
「そうなんだ」
「神坂さんはあるんですか?」
「いや、俺もない」

御曹司=我が儘というイメージがあったが、彼は庶民感覚を持ち合わせた王子様といった感じだろうか。
クスッ。

「え、……何?」
「いえ、何だか意外だなぁと思いまして」
「えっ、何が?」
「インスタントラーメンも食べるし、好き嫌いがない御曹司っていうのが、何となく親しみがあって」
「不健康な医者だったら、目も当てられないだろ」
「確かに」