日中に来たのも、何か用があって来たのかもしれないと思い、夕映は神坂のメールを承諾した。
「どうしよう、着替えるべき?メイクも直した方がいいかな…」
ブツブツと呟きながらリビングの中をウロウロと歩き回り、ハッと我に返る。
必要ない。
今着ているこの服だってさっき見られているし、そもそも取り繕う必要がない。
恋人がいる男性だし、こんな干物女相手にどうなるものでもないか。
夕映はソファに腰掛け、テレビをつけた。
ニ十分ほどすると、インターホンが鳴る。
モニターには彼の姿が映る。
夕映はエントランスの解除ボタンを押し、深呼吸した。
*
「適当にお弁当買って来たんだけど、もう食べた?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、一緒に食べよう」
職場でも美味しいと評判のお店の松花堂弁当。
四季折々の旬の素材がふんだんに使われ、夕映にとっては贅沢な晩餐だ。
でも、いいのだろうか?
婚約者がいるのに、こんな風に二人きりになって…。
「お茶淹れますね」
「悪いね」
電気ケトルに浄水器の水を入れ、湯を沸かす。
キッチンのカウンター越しに彼を眺め、何しに来たのだろう?と思考を巡らせる。
緑茶を淹れ、ダイニングに着くと、彼は頬杖をつきながら何故か楽しそうにこちらを見ている。
「どうかしましたか?」
「こういう時間って、いいよね」
「え?……あぁ、はい」
何が言いたいのかよく分からないが、職場からの呼び出しもなく、ゆっくりと食事がとれるのは至福のひとときだ。
「女性に年齢聞くのは失礼だと分かってるんだけど、黒瀬さんって今幾つなの?」
「年ですか?……二十九ですけど」
「今年、三十?」
「はい」
「じゃあ、ちょうどいいね」
「……何がですか?」



