白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです



「んっ…」

重い瞼を持ち上げると、レースカーテン越しに月明かりが漏れて来て、すっかり夜になっているのだと分かる。

あれ?
ソファに横になってたはずなんだけど……?

寝室のベッドに横たわり、しっかり掛け布団まで掛けてある。
いつの間にベッドまで来たんだろう?
夜勤を三連勤したから、あまりに疲れすぎて記憶が飛んでしまったのかしら?
グゥ~~。

「お腹空いた」

寝起きの夕映はつたない足取りでキッチンへと向かう。
すると、ダイニングテーブルの上に見慣れぬ紙袋が置かれていた。

『頂き物なんだけど、良かったら食べて。それと、いい加減暗証番号変えないと襲うよ?』

達筆な字で書かれたメモが貼られていた。
名前は書かれていないが、誰が書いたのか安易に想像がつく。
ここを紹介してくれた彼だ。

夕映はすぐさまスマホで御礼のメールを入れる。

『ベッドまで運んで下さり、ありがとうございました。それと、菓子折りも。美味しく頂きます』

ツッコミどころ満載のメモを手にして、溜息が洩れる。
色気のない部屋着姿を晒してしまった。

「ダイエットしておけばよかったかな」

きっと、重かっただろうに。
元彼にだって、抱きかかえられた記憶なんて数回しかないのに。
本当に王子様すぎる。

浄水器の水をグラスに注ぎ、ごくごくと喉を潤す。
浄水器付きの物件だなんて、セレブ以外の何物でもない。

ピコン。
彼から返信が来た。

『今仕事終わったんだけど、これから行っていい?』

えっ、今から?
スマホの時計を確認すると、十九時ニ十分。
どうしよう……。
夕食に誘うべき?
いや、婚約者がいるんだから、食事は不味いよね。