白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

(采人視点)

製薬会社の社長との昼会食を終え、病院へと戻る途中で別宅へと寄ってみた。
すると案の定、暗証番号が変えられていない。
独身女性が住む家なのに、セキュリティの甘さが露呈する。

手土産で貰った菓子折りをダイニングテーブルの上に置き、ソファに歩み寄る。

「こんな所で寝てると、風邪引くぞ」
「んっ…」

十四時少し前。
また夜勤明けらしい。

疲れて寝てしまったのだろう。
采人はソファで気持ちよさそうに寝ている夕映を抱き上げ、寝室へと運ぶ。

ベッドにそっと下ろし、頬にかかる髪を優しく流した、その時。
采人の手を掴み、頬ずりするように頬を寄せた夕映。

「あいつと勘違いしてるのか…」

思いがけない夕映の行動に、采人は独占欲に駆られる。

「あんな男のことは、早く忘れろ」

采人は暫し夕映の寝顔を見つめ、寝室を後にした。

**

「神坂先生、来週の手術予定です」
「ありがとう」

看護師から担当する手術の予定表を受け取り、一通の封書を手渡す。

「今日退院予定の草野さんの紹介状」
「お預かりします」
「それと、五二六号室の大友さん、明後日のTAVI術に備えて、今日時点でのCTを撮っておいて貰える?」
「分かりました」

TAVI術とは経カテーテル大動脈弁置換術のこと。
大動脈のCT撮影では血管の形状・蛇行や狭窄の有無があるか。
カテーテルが脚から大動脈を通って心臓の大動脈弁まで安全に到達できるかを見極めるために行う。
通常は撮影を二回受けなければならないが、神坂総合病院のCT設備は最新のものを搭載していて撮影が一回で済むため、患者の負担が少ないのだ。