白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです



「黒瀬、それが終わったら、もう上がっていいぞ」
「はい」
「三連夜勤なんだから、早く帰って休め」
「はい」

搬送されて来た患者のカルテを入力していたら、戸部先生が声をかけてくれた。
夜勤、休日、夜勤の予定が急遽変更になり、三日連続の夜勤になった夕映。
日勤のスタッフ達が慌ただしく動く中、夕映の顔からは疲労感が滲み出ていた。

「明日は休みだし、明後日は午後からなんだから、デートでもして来いよ」
「誰とですか」
「例の御曹司と」
「あ~、あの人、婚約者がいるそうですよ」
「は?」
「式場で一緒にいる所をチラッと見ましたけど、若くて可愛らしい感じの人でしたよ」
「何だよ。絵に描いたような成功者の人生ってわけか」

恋愛に玉砕したばかりだから、今すぐ誰かとどうにかなりたいだなんて考えてない。
年齢が年齢だから、将来的には……とは思うけれど、今は仕事が最優先。
いや、これまでも仕事が最優先だったか。

勉強や仕事には時間を費やせても、恋愛に時間を費やそうだなんて考えたことがない。
時間のある時に、そばに彼がいたから寄り添っていただけで。
これじゃあ、捨てられて当然だ。

可愛げもなく、お洒落も中途半端。
稀に合う休みの日は、家でまったり過ごすくらいで。
冷静になって考えてみると、目も当てられないほど愚かだったことが分かる。

だからと言って、お金を持ち逃げする理由にはならないけれど。



職場を後にした夕映は、スーパーで食材を買い込んで帰宅した。
溜まっている洗濯物を洗濯機に入れ、掃除機をかける。

「この掃除機、幾らくらいするんだろう?」

恋愛だけでなく家電にも疎い夕映は、見るもの全てに溜息が零れた。