白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「あっそう言えば、あの日、一緒にいらっしゃった可愛らしい女性は彼女さんですか?」

よくよく考えてみれば、恋人がいるのにこんな時間に独身女性の家に上がり込んでいいのだろうか?
誰かに見られてたら、要らぬ誤解を生んでしまいそうだ。
彼は、私があり得ないような状況だから、手を差し伸べてくれただけ。

「……恋人という括りになる……のか?」
「へ?」
「彼女は俺の婚約者だ」
「ッ?!!こ、婚約者…」
「あぁ」
「そうだったんですね」
「何、……気になる?」
「いえ、そういうわけでは」

だいぶ若そうに見えたけれど、大病院の御曹司なんだから、婚約者がいたっておかしくない。
もしかしたら、あの日は結婚式の打ち合わせだったのかもしれない。

何もかもが順風満帆で羨ましい。
前世で一体どんな徳を積んだら、こんな人生が送れるのだろう。

すらりとした長い指に見惚れてしまう。
顔だけでなく、指や爪まで綺麗だなんて…。



「ご馳走さま。美味しかったよ」
「お口に合うようでよかったです。あ、そのままで大丈夫です」

腰を上げた彼が、器をキッチンへと持って行こうとし、慌ててそれを止めた。
さすがに片付けまではさせられない。

「じゃあ、遠慮なく」

コトッと器がテーブルに置かれた。
スープまで綺麗に飲み干してある。
クスッ。

「ん?」
「いえ」
「何?」
「スープまで綺麗になくなってるので」

御曹司がインスタントラーメンを食べるというのも想像できないくらいなのに。
スープまで平らげてることに驚きというより、親しみが込み上げた。

「大病院の御曹司だからって、高級料理ばかり口にしているわけじゃない。さっきも言ったけど、俺だって休憩時間におにぎり齧るような時間を過ごして今に至る。別に驚くことじゃないだろ」