白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


バスルームの内ドア(すりガラス)を勢いよく開けた俺は、バスタブの縁に腰掛け、ボディスポンジで体を洗う彼女と視線がバチっと交わった。

「……え」
「あ、ごめん」
「……キャアァァッ!!」
「ホント、ごめんっ」

突然の俺の登場に驚愕した彼女は、慌てて両手で胸元を隠した。

素早くドアを閉め、ドア越しに何度も謝罪しながら、最悪の事態に陥ってなくてよかったと、安堵する。

「何でいるんですかッ!?」
「さっきの電話のことが気になって」
「いえ、そうじゃなくて、……どうやって部屋に入ったんですか!」
「……暗証番号変更してないでしょ」
「あ……」
「まさかとは思ったんだけど」

困惑している様子が、すりガラス越しに伝わってくる。

「とりあえず、出て来てから話そう」
「……はい」
「リビングで待ってるから」
「…分かりました」

バスルームを後にして、リビングへと戻る。

「彼女の無防備な姿に、思わず目を奪われた。だけど、今はそんなことを考えている場合じゃないな」

ソファに腰掛け、無意識に心の声が漏れ出していた。

初めて彼女に会った、あの日。
親友の結婚式でホテルを訪れていた彼女は、フレアスカートのワンピース姿だった。

緩く纏め上げられた髪に上品なメイク。
十センチ近いハイヒールが似合う、すらりとした美脚。
これだけでも十分大人の女性の色香があるのに、CPRする際にチラつかせた胸元が、今も脳裏に焼き付いている。

「彼女のことがもっと知りたい」

采人の薄い唇が緩やかに持ち上がる。

「さ~て、どうやって口説こうかな」

俺のものになるには、まだ時間がかかりそうだ。
だが、逃す気はないけどね。

采人の脳内は、物凄い速さでコーディング(プログラミング)されていく。

バスルームから出て来た彼女は、さっきよりも少しだけ目を伏せていた。
けれど、その瞳の奥には、どこか決意のような光が宿っている。

(……あんなに優しくされて、心が揺れる。でも、私はもう誰かに依存するような女にはならないって決めたのに……)

そんな声が、彼女の沈黙の中から聞こえた気がした。