白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「……お邪魔します」

自分の家なのに、不法侵入しているみたいで変な気分になる。
室内は灯りがついていて、微かに珈琲の香りが鼻腔を擽る。

「黒瀬さん?……神坂ですけど…」

リビングのドアを開けても彼女の気配はない。

「黒瀬さんっ、神坂なんですけど、フルーツ買って来ました!」

他の部屋にも聞こえるようにわざと声を張ってみるが、それでも返事がない。
不安がどんどん色濃くなってゆく。

ただ単に浮気されたとかいう次元でなく。
結婚も意識していたのに、自分が浮気相手だと知らされ…。
挙式当日というありえないシチュエーションで、しかも相手の女性に子供までいる現実を突き付けられた。
挙句の果てには、その女性の救命までしなければならなかった彼女。

これだけでも十分ショッキングな状況なのに、共同で貯めていたお金を持ち逃げされたという現実。
もしかしたら、あの男は最初から金と体が目的だったのかもしれない。
やり場のない感情に耐えかねて、彼女があらぬ方向へと考えを巡らせるのではないだろうかと不安に駆られる。
講習会場で見た彼女は本当に儚げで。
必死に堪えている様子が痛々しかった。

だから、変な方向に気が向いてしまったら……。

寝室のドアをノックし開けてみるが、そこにも彼女はいなかった。

「……ん?…風呂か?」

寝室の奥にあるバスルームのドアを開けると、中からシャワーの音がする。

「なんだ、シャワー浴びてるのか」

風呂から出て来たら“わっ”と驚かそうと思い、ベッドに腰掛けて待つ。
あわよくば、バスタオル一枚で出て来てくれたら……だなんて考えながら。

スマホでニュースをチェックしながら時間を潰す。
けれど、ニ十分経っても一向に出てくる気配がしない。
まさか?!
つい先日、恋人に裏切られた女性が自殺未遂をはかり、救急搬送されて来たことを不意に思い出し、不安がどっと押し寄せた。

バスルームのドアを開けると、相変わらずシャワーの音が聞こえて来るが……。

「早まるなっ!!」