「あれ?……どこかに出掛けてるのかしら?」

マンションに帰宅すると、玄関に彼の靴が見当たらない。
スマホを確認しても、未読のメッセージはないし、実家にでも行ってるのかも。

大晦日の十九時半。
一年の疲れがどっと出る。

シャワーを浴びて、実家から送り込みの蕎麦を茹でる。
うどん屋だが、蕎麦も扱っているのだ。

付け合わせのものを作り終えた頃、彼が帰宅した。

「お帰りなさい」
「ただいま」
「ご実家に行ってたんですか?」
「いや、急なオペに呼ばれて」
「そうだったんですね。オペお疲れ様です」
「旨そうな匂いだな」
「今出来上がったところですよ」
「じゃあ、先にシャワー浴びて来る」
「はい」

入籍して、たった数日しか経ってないけれど、こういう会話も結構慣れた。
プレ新婚生活のような時間があったからだろうか?

手の凝った料理は作れないが、年越し蕎麦をメインに食卓を飾る。

元彼は、何もしないのにあれしろこれしろと結構口煩かった。
仕事を言い訳にして、軽くスルーしてたのもあるけれど。
そういうことの積み重ねだったのかもしれない。
彼に愛想尽かされた原因は……。

今さら後悔しているわけではないが、采人さんに愛想尽かされないようにしなければ。
家事が苦手な夕映は、リビングやキッチンを見回し、散らかっている所がないかチェックする。



「これ、お義父さんが打った蕎麦?」
「はい、そうです」
「冷凍庫に蕎麦なんてあったっけ?」
「昨日届いたんですよ」
「さすが、お義父さん」
「送るのは母ですけど」
「そういう意味じゃなくて」
「分かってますよ、フフッ」