白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


余裕をかましても絶対見透かされる。
私とは生きてきた次元が違うだろうし、対応力が桁違いのはずだ。

「こんなことお願いするのもどうかと思うんですけど、スタートダッシュではなく、スローペースでお願いできますか?」
「フッ、面白いこと言うな」
「ご存知の通り、恋人に裏切られボロ雑巾のように捨てられましたし、それ以前なんて恋すら殆どして来なかったので。采人さんの歩調では到底歩めそうになくて」

自虐ネタもいいとこだ。
誕生日がくれば三十路だというのに、恋愛経験なんてたかが知れてる。
元彼との五年だって、仕事優先で過ごして来たから、濃密な五年とは言い難い。

恋愛のイロハは分からなくても、恋人同士ですることくらいなら理解しているから。
この先彼と付き合っていけばいつかは訪れるであろうその時を、今は少しでも先送りしたい。

「その脳みその中で出した答えなんて、所詮は理想だろ」
「へ?」
「恋が愛に変わるだの、少しずつ愛を育むだの、そんなものは自己満の理想だ」
「……」
「形から入るもよし、言いたいことをぶつけ合うのもよし、手探りでも確実に確かめ合うのも恋愛だろ。目で見えないからこそ、面白いんだ」
「面白い?」
「結果が分かってれば安心はできるが、わくわく感が薄れる」
「……」
「医術も恋愛も構造は同じ。この世にあるもの全て、変化しないものなんて無い。命あるものはいつかは終わりが来るし、無機質なものでも必ず劣化する」
「……」
「時間をかけて成長するものもあれば、やがて消えゆくものもある。俺らにあるのは未来であって、今を惜しむことじゃないはずだ」