白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

(采人視点)

「今日から復帰でしたよね?」
「ん」
「まさか、復帰初日からオペしてないですよね?」
「別に手足を負傷したわけじゃないし、できないことはないだろ」
「本当にしたんですか?」
「フフッ、……そんなに心配?」
「心配というか……。神坂病院なら、他にも医師は沢山いると思って」
「……してないよ、今日は」
「『今日は』って、明日はあるんですか?」
「ん。外科医がオペしなくてどうする」
「……」

執刀はしていない、助手には入ったけれど。

俺が作った煮込みうどんを食べながら、俺が今日何をして来たのか聞いてくる夕映。
傷具合を心配しているようで、途端に箸が止まった。

「傷はほぼ塞がってるし、少しずつ動かさないと、外腹斜筋が元に戻らないだろ」
「それはそうですけど、過度な運動は返って悪化させてしまうので」
「外科医なんだから、それくらい分かってるよ」

脇腹部分をばっさりと斬られたため、内臓を守るための腹斜筋が断裂した。
腹部に力を入れたり体を捻ると痛みが走るが、痛みを我慢して動かさなければ回復が遅くなる。

こんな風に彼女が俺のことを一秒でも多く思ってくれるなら、回復が遅れるのも悪くないな。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の患者、診たことあるか?」
「ARですか?……専攻医(フェロー)一年目の時に診たことがあります。確かその時、神坂病院に転院したと思うんですけど」

大動脈弁の閉鎖不全による病で、心臓が拡張期に大動脈から左室内に血液が逆流する状態のこと。
心不全を起こすと、回復は困難になり、予後はよくない。

「状態にもよりますけど、大動脈弁置換術(AVR)大動脈弁形成術(AVP)で対応できるならいいですけど、上行大動脈拡大を伴うARなら、人工血管置換術とか更に複雑になりますよね」
「……よく勉強してるな」